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MAGIN ―アゼルの魔導士達―  作者: カシミア
終幕 魔導士の帰還
47/51

10-04

   ―アグリア地方 首都セレン《白の宮殿》―


 アゼルより南西の地、国土の中央に位置するアグリア地方。

 南北に貫くアグリア河の河口流域に首都セレンがある。

 砂漠から帰還した宮廷魔導士オクシスは、アンセムの本拠地である白の宮殿に入り、通常の職務に戻っていた。旅の疲れも抜けないまま、砂漠の怪異と被害に関する報告書作成に追われるオクシスを訪ねる者があった。


「聞いたわよ、オクシス」

 筆を止めてオクシスは声のした方を見た。

「レブリスか」


 執務室の戸口に背もたれて立っていたのは女魔導士レブリスだ。オクシスと同じ宮廷魔導士で、アンセムの首席十三座のうちの一人だ。


「奇跡を見たそうね、奇跡認定官殿? ちょっとした話題になってるわよ」

「ああ……、さすがにまいったよ」

 レブリスは宮廷魔導士の称号を持つ者の中で最も若く、好奇心旺盛な性分だ。ここにやってきた理由も見当が付く。

「山のように巨大な魔獣が出たそうね。赤銅蟲の変種?」

 オクシスは恐怖の体験を思い出して苦い顔になった。

「わからん。そういうもので片付くシロモノじゃない。それはもう神懸り的に巨大な蟲だった。初めてだよ、あんな禍々しい体験は……あれを奇跡かと問われれば、そうだと認めざるを得ない」


「でも、倒せたんでしょ? 聞いてるわよ、そのデカ蟲を倒した魔導士、ほんの子供だったんですってね。どういうこと?」

「詳しくは知らん。修練生だとは聞いているが。実際に目にしたが本当に子どもだ」

「田舎魔導士らしいわね。子どもまで戦場に駆り出すなんて」


 レブリスは肩をすくめて嘲笑していたがオクシスは無視して書き物の作業を続けた。

「古代魔法を使うそうね。空を飛び、嵐を呼ぶとか。禁呪じゃないのそれ。どうなってるの」

 オクシスはわずらわしそうに筆を振った。

「知らん。別にアゼルの魔法技術が昔と変わったとか、そういうわけではない。

 あの少女たちが図抜けて強かったということだ。それこそ彼女らも神懸り的に強大な魔力だった。まるで古い伝説に出てきそうな――」


 オクシスはレブリスが挑戦的な笑みを浮かべているのに気がついた。

「なんだお前、興味があるのか」

「そりゃそうよ。(はなは)だしい力を持つ者が現われれば均衡を崩し、やがては国を滅ぼす遠因になるわ。我々はあのアゼルが必要以上に力を持つことを望まない。禍根は早めに摘んでおかないとね」

「一体そりゃどこの価値観だ。お前は何が問題か見えてないようだな。あんな魔獣が出たんだぞ。あれはもう国難といっていい事態だ。我々が今成すべきことは魔法技術の発展だろう」

「だからこそ、彼女らに会って頂いちゃうのが手っ取り早いでしょ。古代魔術とやらをさ。それをルヴェンディの系譜の一端に加えれば、我が方の力は増し、よりいっそう磐石となる」


 オクシスは眉をしかめた。

 仕事で接触する以外で異なる魔導士組織が接触したり交流を持つことはない。基本的に彼らは閉鎖的な集団なのだ。そして魔法技術はどの組織でも門外不出の秘密とされている。

 レブリスの示唆していることは、平和的な手段で、というわけではない。


「お前まさか、アゼルと事を構える気じゃないだろうな」

「さあて、どうかしらね」レブリスは不敵な笑みを浮かべたままだ。

「やめておけ。少なくともあの娘たちの力は尋常ではない。痛い目だけでは済まんぞ」


飛翔術(フレイア)氷嵐使い(ヘイルストーム)か……魅力的だわ。またでっかい魔獣、出てくれないかしらね。そしたら彼女たちに()えるかも」


 レブリスが不敵に口端を吊り上げる。まずいな、オクシスはそう思った。

 宮廷魔導士の中でも一番の若手であるレブリスは攻撃魔法の実力もさることながら、その手段も過激で知られている。彼女の攻撃的で支配欲旺盛な性分でありながら氷のような冷静さも兼ね備える特徴をオクシスはよく把握していた。

 だからこそオクシスは嗜めているつもりだったのだが、レブリスの中の揺るがぬ信念という炎に油を注いでしまったかのような気がしてならない。


「……くれぐれもアンセムの名を汚さぬようにな」

「ハ、面白いジョークね。元より私の務めは日のあたらぬ薄汚い仕事よ。まぁ見てなさい」

 レブリスは外套を翻して肩で風を切るように部屋を出て行く。オクシスはそれを呼び止めようとしたが、声にならなかった。同じ十三座の宮廷魔導士とはいえ、彼女を止める権限は持っていない。


 革張りのチェアに深く腰を落として、オクシスは難しい顔をした。


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