10-01 魔導士の帰還
――ここ数百年の魔術の歴史は衰退の歴史であった。
魔術ときけば華々しい印象を抱きがちだが、実際にはそうでもない。日進月歩で台頭していく科学技術とは入れ違いに、魔術は日々廃れていく運命にあった。
時代時代の権力者に翻弄され、民の感情をいたずらに刺激しないよう阿りつつも、魔導士たちはどうにか細々と生き永らえてきた。
元来、魔導士というものは保守的だ。しかし守ることと保つことは違う。双方を貫くのは易いことではない。
彼らが世俗から隔絶された場所に身を置くのも、そういった俗界の危険から古き教えを連綿と守り伝えてゆこうとする強い意志のあらわれなのだ――
―アゼル地方 魔導学院の城砦―
砂漠の蟲事件が落着してから五日が経過した。
騒然としていた学院内も嘘のように落ち着きを取り戻し、アゼル魔導学院にも普段の静かな日常が戻っていた。
砂漠の魔獣を討伐しての翌日から、オクシス率いるアンセムの魔導士隊は東のアークサライの被害状況の視察と、州都ダリアの訪問に赴いている。
アゼル魔導士隊の副長アースラドも数名の部下を率いてアンセム隊に同行している。
隊長のロッド率いるアゼル本隊は、帰還の途についた。ソルフィス、シャナトリア、ティノの三名も翌日のうちに一足先に魔導学院に帰り着いている。
帰還したばかりのソルフィスたちは、院長からこっぴどくお叱りを受けるのではないかと内心ビクビクしながら出頭したが、ふたを開けてみるとリノー学院長は三人の安否をひどく心配していたようで、子供たちが無事な姿を見せると安堵の胸をなでおろした。
それから三人は現地状況の報告を済ませると、学院を抜け出した理由についてしぼられた。三人は悪霊の件も含めて事の顛末をすべて話したが、まだ解からない部分が多すぎる。リノー学院長はこの件については口外しないよう強く指示した。
その後、三人は無断外出・無断欠席のかどで三日間の停学・謹慎処分となった。不名誉なことだが、他への示しもある。後に帰還した魔導士たちにも全員臨時休暇が与えられているので、院長にいわせれば「帰ってよく休め」ということらしかった。
ソルフィスは帰還してすぐにティノを女風呂に拉致ろうともくろんでいたが、シャナトリアとヴィヴィアンに見つかって激烈極まる阻止にあった。そこで何故かティノがこっぴどく怒られてしまい、彼は悲憤撒き散らしながらカイトに愚痴るハメになった。
もうひとつ。事件解決の日以来、しばらくの間ソルフィスとシャナトリアの部屋を訪ねてくる者が一挙に増えた。砂漠から無事に帰還した魔導士が姉妹に改めて感謝をのべにやってくるのだが、訪問者のほとんどは冒険談に興味津々の修練生たちだ。姉妹のファンも多い。
大好きなソルフィスお姉さまに降りかかる些細な面倒事を良しとしないヴィヴィアンがどこからともなく現れてはこれを追い払い、どこへともなく去ってゆく光景が当たり前のようになってきていた。
そうして、あっという間に五日が過ぎたのだった。




