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MAGIN ―アゼルの魔導士達―  作者: カシミア
第三幕 黄塵の激闘
42/51

9-03

 波乱の魔獣撃退作戦が幕を降ろし、日がとっぷりと暮れると嘘のように静寂な夜がやってきた。急ごしらえで建てられた隊商宿の幕舎の中で宴会が催されることになった。

 散り散りになっていたはずの住人が魔獣撃退の報を聞きつけ、早くもその日のうちに戻ってきたのだ。煌々(こうこう)と燈る街の明かりを見て、無事を確信したのだろう。彼らは危険な荒野を駆けてきたのだ。これには魔導士側がおおいに驚いた。

 したたかな遊牧民たちはさほど遠くに逃げず、近くの高台に避難して隊商宿の様子を見守っていたのだ。多くの建物は損壊を免れなかったが、それでも住民達は魔導士たちの勝利に大変に喜び、彼らの勇猛を讃えて熱烈に歓待した。


 魔導士たちは囲炉裏(いろり)を前に胡坐(あぐら)をかいて並んで座り、酒を酌み交わし、住民たちが振舞う砂漠の肉料理に舌鼓を打ちながら昼間の戦闘を反芻(はんすう)して思い思いに談笑していた。

 すっかり元気を取り戻したソルフィスとティノは、目を輝かせながら肉料理にかぶりついていた。

 驚くことにソルフィスとティノはどこにも怪我なかった。

 ソルフィスの剛身術による鋼の体が、かろうじて彼女とティノを無傷で済ませたのだろう。

 ところが、あまりの空腹に限界がきていたソルフィスはシャナトリアの目の前でついに気絶してしまったのだった。

 姉が死んだものと早とちりしていたシャナトリアは赤面してソルフィスに()びたが、実は空腹で倒れたのだと知ると、一転してソルフィスに小言を並べたてるのだった。


 隣席でほろ酔いになっていたアイシャは眼を(うる)ませながらソルフィスの頭を撫でた。

「ティノぉ、ソルフィスぅ、よかったよぉ。お前たちが無事でほんとよかったよぉ」

 膳の横で黒猫はアイシャに頭をこねくり回されていた。

 ソルフィスは謙遜(けんそん)して頭を掻いた。

「えへへ、あの時は本当に危なかったです。あのままアイシャさんに助けらなかったと思うと……。本当にありがとう、アイシャさん」

 アイシャの援護射撃が見事に蟲の目玉を射抜いたくだりをソルフィスが嬉しそうに語ると、それを聞くや否やアイシャは目を輝かせて両腕をがばっと拡げソルフィスを抱きしめた。

「ん~っ、かわいい奴めッ! お前のそういうところ好きッ」

「わっ、痛い! 痛いってば、アイシャさん!」


 スキンシップの嵐に悲鳴をあげるソルフィス。黒猫ティノはソルフィスの困り顔を見上げながら、少しは俺の気持ちがわかったか、とでもいうように笑っていた。

 充分に気が済むと、アイシャはさらに隣に座る次の標的に眼を光らせた。

「シャナトリア~、今日はお前、一番よく頑張ったなぁ。オマエ、一番!」

「……どうもです」

「その栄誉をあたしが、このあたしが! 褒めちぎってあげよー」

 アイシャはまた両腕をがばっと広げた。

「さあっ、おいでぇー!!」

「ヤです。絶対、イヤです」

「なんでぇ!? ちぇーっ、ソルフィス、お前の妹はちと冷たいんじゃないのぉ?」


 シャナトリアに邪険にされて仕方なくソルフィスにからむアイシャはすでに虎状態。

 暑苦しいアイシャと対照的に反対側のシャナトリアは氷のような虎だ。ティノは傍から両者を見比べつつ、ウゼーことになってきたぞ、と迷惑そうな顔をしていた。

 ところが二人に挟まれたソルフィスもまた、たいした虎のようだった。

 ソルフィスは、ばーんっと卓を叩いて片膝をつき、

「大丈夫っ! シャナはわたしが誉めてあげますからね! 姉として!」

 握りこぶしでそう答えると、隣に座るシャナトリアにズガーンと抱きついた。


「んにゃ!?」

 身動き取れないほどにぎゅっと抱きしめられたシャナトリアは、ソルフィスがアイシャからそうされたように、頬ずりの洗礼を見舞われた。

「ん~っ、シャナっ! よく頑張ったね……ほんとにありがとう。お疲れさまっ」

「~~~~!!」

 突然のことに仰天したシャナトリアは頬を真っ赤に染めあげて固まってしまい、ソルフィスのされるがままになってしまった。

「……あたしも、ソルが無事で本当によかった。嬉しい……本当に。ありがとう」

「うん、うん!」

 姉妹はひしと抱き合い、お互いの無事を喜んだ。

「……ソルは猛獣使いなんだな……。いや、(ネコ)使い……」

 ぽそりと黒猫がもらす。


 二人の様子を傍目(はため)で見ていたアイシャが悔しそうに肩を揺らした。

「ちぇ、ちぇ~っ。さすが姉妹、ほんに仲のよいことだぜ。うーん、じゃあ~、ティノ! あたしは今からお前を誉める! 誉めちぎってあげる!」

「んにゃ!?」

 傍らでのんびりと料理を味わっていたティノは突然アイシャにむんずと掴まれ、怒涛のスキンシップの嵐に見舞われた。

「うわぶぶばばば、ば、バカ師匠やめろ~っ」

「わっはっはっは、モフモフだぁ!」

「ヤメロー」

 その様子を見ていた誰もが噴きだし、会場は笑いに包まれた。

 上座でその光景を眺めていたロッドとオクシスは穏やかな笑みを浮かべながら視線を交わし、杯を持ち上げた。


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