7-05
「着替えるわ」
宿屋最上階の涼しい小部屋にて、白猫シャナトリアがぽつりと口を開いた。
彼女が体調を崩していることを気にかけていたティノはずっと横に付き添っていたのだが、
「ん、じゃあ俺は外で待っていようかね」
部屋を出ようとしたティノをシャナトリアは呼び止めた。
「ダメっ。あんたもここにいるのよ」
「ハ? そりゃまたどういう……?」
「あんたは、あたしの目の届くところに居るのよ。いい?」
「ハ、え? なんで?」
「なんでもいいの! 変な勘違い起こすんじゃないわよ。あたしがいいって言うまで、むこう向いてなさい。絶対こっち見ちゃダメよ。見たらぶち殺すわよ」
なんでそんなことを……。不可解なシャナトリアの言動にティノはブツクサと文句を垂れていたが、しぶしぶ承諾して窓枠に腰をおろした。
「ぜったい見ちゃダメだからね!」
「わけわかんねぇ。んじゃあ早くしろよ」
シャナトリアが人の姿に戻って着替えをしている間、ティノはのほほんと窓の外を眺めていたが、視界の端にモゾモゾと動くものが見えた。なんぞや?
「あっ、ムカデだ!」
シャナトリアの動きが止まった。
「にゃっ! こいつめ、こいつめ!」
窓枠づたいに這っていたムカデを、ティノは猫パンチでバシバシと器用にはたきはじめた。
「ムカ……」
「にゃはは、やったどー」
叩かれて動かなくなったムカデをティノは得意げにつまんで持ち上げた。
ぶらんぶらんとのたうつムカデをシャナトリアは凝視した。
「ヒ」
凝視してしまった。
「ヒィー、バカっ! キャアアアァァァァアアァア!」
極大悲鳴とともにシャナトリアの指先から、ばっちーんと雷撃がほとばしった。
ティノがつかまえていたムカデがどっかに消しとんだ。と思いきや、床にぼとりと落ちた。
「イヤアアァァアアァァア!」
「ギニヤー」
シャナトリアはすっかり血相を変えて、床を這い回るムカデにばちーんばちーんと雷撃を飛ばしまくる。ムカデは逃げ回った。黒猫も逃げ回った。シャナトリアも逃げ回った。
騒ぎを聞きつけてアイシャが駆け込んできた。
「どうした、おまえら!?」
シャナトリアは黒猫を胸に抱いて、小部屋の隅にうずくまって泣いていた。
「ム、ムムむむム、む、ムカデがぁ!」
すっかり怯えきったシャナトリアが泣きながらあらぬ方向を指差すので、アイシャは焼き焦げ付いてしまったひどいありさまの部屋を見回した。
「そんなモンいねえよ。それよりなんだお前その格好、すっぽんぽんじゃねーか……服着ろ」
シャナトリアは震えながら黒猫を持ち上げて己の姿を見てみた。素っ裸だった。
少女の裸体をまじまじと見つめる黒猫と目が合った。
黒猫は苦笑いするしかなかった。




