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MAGIN ―アゼルの魔導士達―  作者: カシミア
第二幕 熱砂の丘
29/51

6-03

 魔導師長ロッドは作戦変更の判断を迫られていた。

「その情報、確かなのですか?」

 町の広場に設置されたテントの中で、数人の男が机を囲んで向かい合っていた。

 ロッドに詰め寄っているのは、宮廷魔導師のオクシス。

 政府直属の魔導士組織アンセムから派遣されてきた応援部隊のリーダーだ。

 応援部隊といっても、彼を含めてたったの四名。本当のところの目的はこの件の視察と思われる。アゼルの魔導士が一箇所に集い、一定規模の戦力で魔獣の大群相手に戦闘を行うのだ。今回の魔獣の襲来は、政府にとってアゼルの力量を測るのに絶好の機会といえよう。


 当初の予定では、このオブクトサライに魔獣撃退の要塞を築き、待ち構えたうえで魔獣を迎撃することになっていたが、未明のうちに思わぬ情報が寄せられたのだ。

 アゼル門下の魔導士三名がこの先にあるジェチサライの枯れた河に水を流して魔獣進攻の阻止を図るという、型破りなことをやってのけようとしているのだ。


「いやぁ、まったく困った連中です」

 胡麻塩の頭をさすりながら、アゼル魔導士隊の(おさ)ロッドは笑って言った。

「情報については確かです。問題のない教え子だとはいえないが、やるときは、やる。そんなかわいい奴らでしてね」

 宮廷魔導師のオクシスは、ロッドの悠然とした態度が少し気に入らないようだ。

 このアゼルの大所帯の中では〝よそ者〟扱いのオクシスだが、そのようなことをまったく意に介さず、少しも臆することなく強情で懐疑的な険しい表情をみせた。

「砂漠に河を作るなど、まるで夢物語のようだ。奇跡を望んでいるとしか言いようがない」

 組んだ手を机に置き、この小役人のような男はロッド魔導師長の真贋(しんがん)でも診るかのように目をギラつかせた。

 対してロッドは穏やかに寛いだ姿勢を崩さず、終始にこやかだった。オクシスの質問に対しても具体的な内容を避け、あいまいな答えでのらりくらりとかわしている。



 確かに、その大胆な計画が実現すれば蟲どもは河で塞き止められ、そこで立ち往生することになろう。退くことを知らぬ砂蟲が塊になって動けなくなったところを一網打尽にできる。

 であれば、ここで待つよりもジェチまで進んで、そこで戦った方が事が有利に進むだろう。

 今から移動をはじめれば現地に着くころには正午過ぎ。おそらくその頃に会敵するであろうから、防御陣地を構築する時間は満足に取れない。もし彼らの計画が失敗すれば、我々は心許ない防御陣のまま包囲されてしまう。


 これは賭けだ。やるとなれば、その別働隊とやらの働きに賭けるしかない。

「その者たちはたったの三人と聞いている。雪山から河に水を引いてくるなど、途方もないことだ。やるとすればとんでもない魔力が要る。それに、そもそも間に合うのですか? すでに彼らは動いていると聞いているが、ここから北壁までは相当な距離だ。本当に現実的な、見通しの立てられた作戦といえるのですか」

「そりゃ、もちろんですとも」

 相変わらずロッドは笑顔でうなずくだけだ。

(本気か、このじいさん)

 オクシスは口をへの字で結んで渋い顔をした。

「ずいぶんとその者たちを買っておいでのようだが……、彼らを信用し蟲どもに包囲される危険(リスク)を冒してまで前進を続けると? そこまで自信がおありなのか」

「ええ」ロッドは鷹揚に肯いた。

「彼らはきっとやり遂げてくれる。我らもそれに応えて、進まねばならぬ」

「うーむ……」

 オクシスは鼻を鳴らして唸った。


 アゼルの導師を束ねるほどの深い経験を重ねた古豪(こごう)が、その知見をもってして手放しで認めるというその人物とは一体何者なのだろう。

 たしか数ヶ月ほど前に「強力な魔導適性者が現れたようだ」との情報がケプラーから寄せられていた。その者のことだろうか? いや、学院の新入りは決まって幼子だ。ありえない。となると、凄腕の上級魔導士(アークメイジ)たちなのだろうか……。それでもかなり無理があるように思う。

 不可解なのはロッドの無謀とも思える決断に対して、部下の魔導士たち誰もが異を唱えないことだ。皆がこの作戦に信頼を置いているのだ。

 彼らの自信の根拠となるものは一体なんだ? 何が彼らを納得させ、突き動かすのだろう。オクシスはそれがひどく気になった。



 ロッドは咳払いして、もうひとつ付け加えた。

「この場に留まって待ち構えるとすれば、決戦は日が沈んでからとなります。魔獣を相手に夜の(いくさ)はやりづらい。であれば、このまま進んで日のあるうちに勝負するというのも手です」

 ロッドはオクシスと向き合った。

「もとより危険は承知の上。数刻経てば後続の応援部隊がここの守備にあたることになっています。貴殿にはここまでご足労頂き、まことに恐縮ではあるのですが、あとは我々だけで参りますから、引き続きこの場の守備に……」「あ、いや! ちょっと待った」

 オクシスは手を振ってあわてて話を遮った。


「いやいや、我々も最前線までご同道いたしましょう」

 置いてけぼりにされたのではグラスウェルからはるばるここまでやって来た甲斐がない。

 オクシスは熱心に参戦を申し出た。

「おや、左様(さよ)ですか」

 ロッドは少し驚いたふうに肩をゆすってみせたが、この若い宮廷魔導師に、

「奇跡というものを、私も見てみたくなりました」

 と言われて思わずにやりとした。こちらとしてもそれは望むところである。

「わかりました。そう言って頂けるのであれば……貴殿らのお力添え、我々としては何よりもありがたい」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 二人は握手を交わした。こうして政府直属の四名の魔導士が同行することになった。


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