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―ミレー地方東部 アークの隊商宿―
月夜の砂漠。国土の最も東に位置する、隊商宿アークサライに異変が起ころうとしている。それまで静寂に包まれていた街に突如として地響きが起こり始めたのだ。
最初に潰れたのは集落の外周に建てられていた厩だった。頑丈だったはずの土壁は根元から削り取られ、砂のように脆く崩れさってゆく。黒く蠢く〝波〟が街を攫いつつあった。
街のシンボルとして親しまれていた聖堂は土と石でできた一番頑丈な建物だった。これが崩壊するのに実に半刻と掛からなかった。街は黒い波に覆われた。
幸いなのは住民たちが避難を終えていたことだ。ダリアからの急使が一足先に彼らに危険を知らせ、そして何よりこの地に住む者たちが砂蟲の恐ろしさをよく理解していたおかげだ。
だが、この夜、アークサライというそこにあった街は、地図から消滅した。
黒い波はすべてを覆い尽くし、すべてを灰燼に帰して去っていった。




