2-04
東の空がうっすらと白んでいた。
ソルフィスとティノはほとほとにくたびれた様子で帰途についている。
ティノはこれから自分たちに降りかかるであろう災難に頭を悩ませていた。
すっかり朝帰りになってしまった。不可抗力とはいえ、豪快に門限を破ってしまったのだ。寮母からこっぴどくお叱りを受けることになるだろう。いや、あの人は話が解かる人だからまだ大丈夫だ。
問題なのは――こいつの妹だ。
「……絶対に雷が落ちる。間違いない。どうしよう……」
という具合に悶々と、前肢でくちゃくちゃと頭を掻き回し、彗の上をウロウロと行ったり来たりしていたが、そんな先のことを心配してもしょうがない。ティノは考えるのをやめた。
今日あった不思議な出来事を振り返り、ソルフィスとティノは談笑していた。
「コリン、お母さんと一緒に天国にいけたかなぁ」
「あいつなら大丈夫だろ。清き魂は幻想界ってとこに渡って現世の疲れを癒すんだと」
「うん……、きっとそうだね」
払暁の名残を残し、ばら色に染まりつつある東の空。
疲れと眠気の中、ソルフィスは奇妙な幻影を見た。
コリンが母親の手を引き、雲の上で嬉々として戯れている姿を見た、ような気がした。
いつしか会話も途切れ、沈黙がおとずれていた。
ふいにソルフィスが口に出した。
「あのね、ティノ。わたし、大切なことを思い出したよ」
「ん、なんだい?」
「わたし、おなかすいた」
「わぁ」
ついに気付きやがった。
「そうだった。いやぁ、昨日の昼から何も食ってないもんな。ソル、昨日今日と頑張ったもんなぁ。いや~」
自分も言われて気が付いたよ、とでも言うようなわざとらしい素振りを見せながら、ティノの持つ高度な感知能力がとても嫌な予感を察知し始めた。
「……行けそう?」
「……だめ」
「なんですと!?」
黒猫はぴょんと飛び上がった。
ソルフィスは空腹のあまり、顔面蒼白でぷるぷると震えている。
「うおぉ、冗談じゃないよ? あと少しではありませんか! がんばれっ、ふんばれっ」
ティノも顔面蒼白になってソルフィスの頬をポコポコ叩いて励ます。
が、既にソルフィスの目には生気がない。
気付けば高度もだんだん落ちてきている。まるで沈みゆく泥舟だ。
「ええぃ、飛べ! 飛ばんか! この! お前はやればできる子だろ? 行けー。ほれー」
ティノは勇躍して彗の先っぽに立ち、パタパタしっぽを振ってソルフィスを鼓舞した。
が、その努力の甲斐むなしく、ソルフィスは青ざめた顔で唇をとんがらせるのだった。
「ムリ、かも」
彗の先端がカクンと下がった。
黒猫はただならぬ叫び声をあげた。




