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おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報3 ~兄妹のち恋人!?~
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突破への第一歩

 おにいちゃんの姿を消した扉が名残惜しいままパタンと閉じられる。


「さあ、早く。ここへ」


 お母さんが言い放ち、両脇を抱えていた部下の人たちに必死で抵抗したけど結局連れていかれてしまった。


「葵ちゃん、これが済めば全て終わるんだからね、我慢しないと」


 近づいてきた雅紀さんはニコリと微笑む。さっきは目を逸らされたのに。

 周りはただ成り行きを見て関わないようにざわついてるだけ。

 この中に誰も助けてくれる人なんていない。

 おにいちゃんも大人数で無理矢理連れていかれてしまった。

 反抗すればこうなるって見せつけるように。

 …このまま、あたしは雅紀さんと婚約するしかないの?

 今までの経験でお母さんの思い通りになっていくのを感じる。

 怖くてしょうがない。だけど、このまま流された状態でいられるの?

 ううん、嫌だ! 絶対に嫌。後悔なんてしたくない!

 雅紀さんや藤堂家、違う、もうお母さんの言いなりになるのは絶対に嫌だ!


「雅紀さんと結婚なんてしない! 婚約式なんてしない! だってあたしには何よりも大事でとてもとても大好きな人がいるから!」


 ありったけの声を上げて力の限り叫んだ。もう黙ったままでいられない。

 お母さんが近づいてきて怖い顔をして手を振りかざす。だけど今度は怯まない。

 さっきはおにいちゃんだって頑張った。だからあたしも負けない。


「黙りなさい。葵」


 右頬が熱くなっても叫び続けた。ここで引いてしまったら一生後悔する。

 涙が溢れてきてもあたしは抵抗し続けた。こんなことでしか抗えないから。


「いい加減にしなさい!」


「葵ちゃん、黙って」


 お母さんが再び手を掲げると慌てて雅紀さんが口をふさいだ。 

 部下の人たちに両腕は捕まれたままだったし、もう身動きが取れない。

 このまま終わるしかないの?

 

「もうやめないか!」


 突然、はっきりとした口調が響き渡る。

 さっき閉まったはずの扉からおにいちゃんとは違う、聞き慣れない声。

 現れたのはスーツ姿で背筋の伸びた見慣れない大人の男の人。

 すると騒がしかった人たちが一斉に静まり、頭を下げだしている。

 こっちに近づいてくるにつれ、髪を上げてるせいか目じりに少ししわの見える整った顔立ちが見えた。

 

「ど、どうしてここに…」


 お母さんが驚いたように一歩下がった。あたしを掴んでいた部下の人たちも下がっていく。

 何が起こったのかわからない。一体、この人は誰なの?

 そしてこの男の人の後に遅れて作業着姿の男の人も入ってきた。


「と、父さん」


 雅紀さんが声を上げた。中央へと移動したその二人が並んで周囲と向き合った後、マイクを握った。


「ここで告知しておく。高倉機器と我が社の機器部門で業務提携を結んだ。それに伴い婚約は不要。この親睦会を機会に事前発表したので情報解禁までは口外しないように、以上」


「そんな…」


 お母さんは呆然としてスーツ姿の人を見つめて雅紀さんも作業着姿の人に詰め寄ってる。


「何故だ。その提案は僕が交換条件として出したのに!」


「よしなさい、公の場だ。それに藤堂氏と利害が一致してそちらを優先にしたまでだ」


 雅紀さんは納得していない状態のまま、作業着姿の人と退場していった。

 そのまま立ち尽くしていると男の人が近づいてきて肩に手を置く。


「初めまして、葵。私が今の君の父親でもある藤堂忠人だ」


 この人が、藤堂家の! 今のお父さんでもある人!


「一旦、退場しよう。さあ、和美、君も来なさい」


 そうしてお母さんと一緒に控えの間へと促された。


「葵!」


 部屋に入るとおにいちゃんがいて、すぐ守るようにあたしの手を掴んだ。


「葵、貴裕! 二人とも離れなさい!」


 お母さんが声を荒げ、手を離そうとするのを制したのは今のお父さんだ。


「和美、いい加減、貴裕を解放しなさい」


「何を言い出すの? 貴裕は一生、あなたに恩義を尽くさなきゃいけないのよ!」


「それとこれとは別だ。藤堂家に縛り付ける必要はないだろう」


「いいえ、命の恩人であるあなたから離れてはいけないのよ」


「そうじゃない、和美。貴裕から離れられないのは君の方だ。今は既に藤堂家のものではない。貴裕は藤堂家でなくとも恩義を尽くす。それに君も十分、役目を果たしたんだ。いつまでも固執していないで周りをみるんだ。もう自分を苦しめる必要はない。どうすればいいのか、わかっているだろう?」


 お母さんは歯を食いしばり、あたしたちを見つめる。その表情は悔しそうで悲しそうに見えた。


「俺はもう堀川貴裕だ。既に藤堂氏自らの承認を得て手続きはもう済ませてある」


 おにいちゃんの手にギュッと力がこもる。お母さんは更に顔を歪めた。


「嘘でしょ、貴裕!」


 …お母さんが、泣いている!

 鋭い眼差ししか知らないその瞳からポロポロと涙が溢れ出していく。

 

「そんな、貴裕までいなくなったら私はどうしたら…」


「…だが貴裕は生きている」


 泣き崩れていくお母さんに今のお父さんは歩み寄る。


「もう自分で生きていけるんだ。君の手は必要ない」


 その光景を目の前にしてあたしはどうしようもなく心が震えた。

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