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おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報3 ~兄妹のち恋人!?~
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歪なお披露目パーティー

「こんなことをして、いい気になるなよ!」


 力強そうな体型の黒スーツ姿の男の人たちに両脇を掴まれた明人さんがお母さんに向かって叫んでいる。

 傍若無人な態度で仕切られてた日々も10月に入り、とうとうお披露目会の当日がやってきてしまった。

 

「今まで好き勝手にしてきたのだから、当たり前でしょ。今日だけは邪魔されては困るもの」 


 お母さんは腕を組みながら明人さんを睨んでいた。

 この日ばかりはいつものような態度を取られたら体裁がつかないと本気で怒っている。

 期日が迫るにつれ、ピリピリしていたお母さんはこれまでの悪行のせいもあってか明人さんが参加できないように留めようとしていた。


「しっかり頼んだわよ。絶対に逃がさないことね」


 マリさんにそう伝えるとお母さんがあたしを連れ出した先は高級そうな大きなホテル。

 藤堂家親睦会という名称であたしのお披露目がメインに変わっているみたいだった。

 元々おにいちゃんと美佳子さんの婚約式が大々的に行なわれる予定だったようでよくわからない状態で有耶無耶な感じに濁されたまま延期扱いになったっぽい。

 おにいちゃんが出て行ったあの日以来、どうしても行方がつかめなくなってるようだから。

 それで急遽ついで扱いだったあたしの方に力を入れるようにしてから忙しくなったみたい。

 そのせいで今回美佳子さんは出席させないようで橘家以外の関係者を招くとか。

 それに藤堂家のホストとして務めるのはお母さんだけであたしはただ藤堂家の一員として紹介されてから雅紀さんとの婚約も発表する流れと聞かされた。

 というのもずっと明人さんに振り回されながら今日を迎えることになったから、この事情は移動中、あたしが口を開く間もなくお母さんから一方的に捲し立てられた。


「さっさと来なさい。こっちよ」


 早足で前を歩くお母さんに必死でついていく。今はまだ広いフロア一帯の会場が整えられてて招待客は誰もいない状態。

 ただ控えの間で最終調整だとずっと怖い顔で作法や言葉の練習を何度もさせられていた。

 しばらく侍女っぽいことばかりしてたせいか少しでもつっかえると声を荒げられるばかり。

 何か余計なことを口にするならまた叩かれてしまうような雰囲気が怖い。

 だけどお母さんにはあたしの考えをちゃんと言わなきゃいけないのに。

 開催の時間が迫る中、久しぶりに追い詰められた気持ちになり、落ち込んでいると雅紀さんがやってきた。


「こんばんは、葵ちゃん。今日はよろしくね」


 久しぶりに会った雅紀さんはいつもと変わらないように微笑んでいた。

 今なら言えるかもしれない。お母さんが無理でも雅紀さんは優しいし、聞いてくれるはず。

 お母さんに話すつもりだったけどもう時間がないし仕方がなかった。

 明人さんにはちゃんと雇ってもらえると約束したし、婚約だけでも断ろうと思う。

 3人だけの室内、勇気を出して雅紀さんと向き合いはっきりと口に出した。


「雅紀さん、あの、あたし、婚約の件、やめたいです」


「…急に何を言い出すのかと思ったら、どうしたの?」


「葵、何言ってるの!」


「ああ、不安なんだね。大丈夫だよ。僕の言うとおりにしてれば助けてあげられるから、ね」


 雅紀さんは笑顔を崩さす、肩にそっと手を置いた。逃がさないと言われているような感覚になる。


「申し訳ないですわ。高倉さん」


「いえいえ。きっとこんな大舞台だから緊張してるだけですよ。まあ名乗りさえすればあとは僕がフォローしますので」


 お母さんに言い放ってあたしの方に向き直る。


「ね、そのくらいはできるよね?」


 圧を感じながら念押しされた。

 !!

 …お母さんと同じなんだ!

 やっとわかった気がする。今までずっとこんな感じが嫌だった。

 お母さんにも雅紀さんにもあたしの存在なんて全くないに等しい。

 あたしのことなんて見えてないし、見ようともしない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()んだって。


 気が付けば大勢の人たちが集まっていて時間だからと会場に移動した。

 お母さんの挨拶が始まり、乾杯の音頭が取られ、和んだところで紹介が始まる。

 マイクを差し出され、あたしの挨拶の順番。

 もうここしかない。今、あたしの気持ちを伝えないと。


「と、藤堂葵です。あの、あたし…」


 名乗り、切り出そうとしたところでマイクを取られ、ニコリと雅紀さんが微笑んだ。

 お母さんが切り替えるように紹介し始める。雅紀さんが頭を下げ、声を発する。

 ダメ。このままじゃダメなんだ!

 だから!


「あたしは、婚約なんてしない!!」


 雅紀さんのマイクを奪おうとしながら叫ぶ。だけどその瞬間、左の頬に鋭い痛みが走り、尻もちをついた。


「見苦しいところをお見せしましたわ」


 会場がざわつき始め、お母さんは右手を抑えながら何事もなかったかのように語ってる。

 立ち上がれないまま、涙が頬を伝わっていく。


「もう茶番はやめろ!」


 心が凍り付いてしまった瞬間、その声が聞こえた。

 開かれた扉の向こうで人影が近づいてくる。

 息を乱して走り寄ってくる、おにいちゃん、だ!

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