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おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報
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悪戦苦闘の家事見習い

「…それで"オレの専属"ってどういうこと? おにいちゃん?」


 あれから固まるあたしを無視するかのように次々に食事の準備が進んでいった。

 タイミングよく食事を盛ったワゴンがやってきて男の人たちが運んでいく。

 1枚の皿にサラダやらサンドイッチやらとバランスよく盛られている食べ物類。

 ジュースやミルクの入ったピッチャーからグラスに注がれる飲み物類。

 卓上には数枚のお皿とスープ、グラスがきらびやかに並んでいた。

 あたしが立ち竦んでいる間にもう食べるだけという準備万端状態。

 そこにエプロンを外して座れとおにいちゃんの斜め横へ。

 人払いをさせたおにいちゃんと2人きりという最中。


「…貴裕様だろ、葵」


 少しムッとした様子でグラスを掴んだ。


「何が何だか訳が分かんなくて頭の中がごちゃごちゃだもん!」


 オレンジジュースを飲むおにいちゃんを睨む。

 だけどおにいちゃんは黙々と食事を続ける。


「ねえ、おにいちゃん、聞いてるの? おにいちゃんったら!!」


 思わず声が大きくなるあたしにおにいちゃんはキッと睨みつける。

 うう、怖い…。知ってるおにいちゃんじゃない…。


「…た、貴裕様。どういうことか教えてくださいぃ…」


 何故か敬語になってしまう弱気なあたし。


「それでいい、葵。どこで誰が聞き耳立ててるか分からないからな」


 おにいちゃんは用心深そうに小声で呟いた。


 テーブルのみが置かれた、食事以外のあたしたち2人しかいない部屋なのに?


「それに口癖になってるみたいだから気をつけないとな」


「…だっておにいちゃんはおにいちゃんなんだもん」


「…ふ、そうか」 


 おにいちゃんは少し寂しげに微笑むと、


「だけどここにいる間は貴裕様だ、いいな」


 念を押すように釘を刺す。

 しぶしぶ頷くと質問を繰り返す。


「それで専属ってどういう意味?」


「読んで字のごとく、オレだけのために身の回りを世話をするってことだよ」


「な、何で? あたしが?」


「…ここにいる理由が必要だろ? だから特別な事情で雇ったって伝えてある」


「理由?」


 おにいちゃんは一息つくと話し始めた。


「いいか、葵。オレの前父が壷の修復費のため住み込みで働くことになりました。そのため葵を預かる事になりました。その壷の所有者は今のオレの父です。…で、はい、そうですかと誰もが納得すると思うか?」


 思わないとあたしは頭を左右に振った。

 そもそもお父ちゃんが抱えてしまった借金をおにいちゃんが手助けしてくれたんだっけ。

 ここ数日の非現実的な体験ですっかりそのことを忘れてしまってた。


「ごめんね、おに…、貴裕様」


 お父ちゃんに協力するって事はおにいちゃんに協力するって事だもんね。


「これからちゃんと聞いてがんばるから」


 すっきりとした気持ちで伝えるとおにいちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

 その微笑が意味ありげとは全く思いもせずにね。


 

 ブランチ終了後、おにいちゃんは書斎へ、あたしはマサさんに館内の案内をされていた。

 2階部分は朝伝えたからと省略され、1階の応接室やら茶室などなど。

 別館の1階部分が終わると今度は本館へと移動することになった。


「葵様は基本的には本館に赴くはございません。ですが、粗相が無いようにご紹介させていただきます」


 言われて着いた先はあたしと同じ服を身に着けた女性たちと黒スーツ姿の男性たちの控え室。

 その人たちはあたしの目の前でびしっと一直線に整列。


「こちらが葵様でございます。貴裕様の専属として雇われておりますが、私たちは葵様を大事なお客様として扱うように命じられてますので粗相の無いように」


 え? そうなの?

 マサさんが厳しい口調でその人たちに釘を刺した後、部屋を後にした。


「あのう、マサさん。あたしのことお客様だって言われてるの?」


「はい、そう伺っております。…ですが貴裕様の専属ということですのでその辺はみっちり仕込ませていただきますから」


 どうやらマサさんはおにいちゃんに関することには細かそうだ。

 朝から時間単位に説明してたもんね。

 …そうやってのん気に思っていたのが甘かった。

 午後2時からのアフタヌーンティーを用意することに。

 焼きたてのマフィンとスコーンに合わせて紅茶をセッティング。

 カウンターキッチンでマサさん指導の下、作ることに。

 だけど普段から家事なんてしたことのないあたし。

 でもって不器用さが加算されて大変?

 ポットとカップを温めるっていうからお湯を注ぐと溢れ出してあやうく火傷しそうになるし、缶のふたを開けようと引っ張ったら紅茶の葉が撒き散るし、勢い余って紅茶の葉がカップに入るわでマサさんが叫んでいた。

 家庭科の先生と同じリアクションしてる、なんて思ったり。


「先が思いやられますわ…」


 頭を抱えて結局マサさんが入れ直して準備終了。

 ワゴンでおにいちゃんの元へと運ぶ途中、勢い余ってドアに激突。


「葵様!!」

 

 せっかく用意したアフタヌーンティーはむなしく廊下に散らばり、マサさんの叫び声が響いていた。

 ワザとじゃないんです~~!! ごめんなさ~~い!! 


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