強行突破の脱出劇
いくらなんでもおかしいよ。
鈍感なあたしでもさすがに気づく。
何で閉じ込められているの? そんなに悪いことをしたの?
ワンピースっぽいパジャマ姿のあたしはベッドに座り込む。
ただ、おにいちゃんに会いたいと思ってちょっと抜け出しただけなのに。
急に悲しくなって涙があふれてきた。
同じ敷地内に居るのに会えないなんて寂しいよ。
このままだったらお披露目会までもずっと会えない気がする。
明かりの消えた部屋でぼんやりそう考えていたら嫌になった。
そうだ、やっぱりおにいちゃんに会いに行こう!
今日はおにいちゃんがいるのが分かっているし、もう限界かもしれない。
だけど、部屋からは出られないし、どうしよう。
暗闇の中、不意にカーテンが目に入る。
そうだ! 窓から出ればいいんだ!
鍵を開けた窓を開くと薄明かりの夜空が見える。
下を見ると2階のベランダが目に入った。
あたしの部屋の真下はゲストルームだっけ。
普段使われていない部屋だけど、降りるには高さがある。
あそこまで飛び降りるのには勇気がいるけどがんばろう!
窓に足をかけたものの、やっぱり怖い。
ひらりと舞うカーテンをロープのようにつかみながらぎりぎりまで2階のベランダに近づいたもののブチっという衝撃と共に落下。
少しやせたとはいえ、やっぱりあたしの体重にはかなわなかったみたい。
叫びそうになるのをこらえたものの、痛さと衝撃音は抑えようもなかったけどどうにかベランダに辿り着いた。
物音で気づかれなかったかな? とじっとして様子を見たけど、大丈夫みたい。
よおし、こうなったら絶対におにいちゃんのところへ行こう!
何だか勇気が湧いてきてそこからあたしはちぎれたカーテンをベランダの柵に結び、地上へと降り立ったんだ。
本館の裏手になる建物からところどころ小さな明かりが見える。
就寝に近い時間とはいえ、特に1階はまだ明日の準備に覆われて忙しいはず。
気づかれないようにと精一杯気配を押し殺しながら別館の方へと移動した。
これだけ慎重に行動できるのももしかしたら訓練のたまものかもしれない。
今までのあたしだったらどこか抜けていて失敗しているはずだから。
変な自信とやる気で気持ちが高ぶってるのかもしれない。
「うーん、どうしよう…?」
別館の裏手に辿り着いたものの、室内へ入る方法に困ってしまった。
本館の正面はⅬ字型に位置しているけど、別館の玄関は正面側だし、今は鍵がかかっているはず。
ガチャガチャやってたら元々別館側は人は少ないけど誰かが気づくだろうし、あたしが抜け出したこともばれてしまう。
既に別館1階は薄暗く、2階はおにいちゃんの部屋だけ明かりが灯っている。
---あそこにおにいちゃんがいるんだ!
どうにか中に入る方法を考えないと、でも戸締りは万全だし…。
おにいちゃん、気づいてくれないかなぁ…。
2階を見上げながら見つからないように周囲に注意してしばらくそこにいたけど効果なし。
仕方がないので裏手を少し歩いていると、細長の窓が目に入る。
1階の高い位置でほぼ2階に近い横長の細い窓は別館の風呂場で喚起のために設置されているもの。
そうだ、あそこだけは鍵がかかっていない。別館に居た頃を思い出し、急に力が湧いてきた。
高さがあるから梯子が必要だけど、専属やってた頃にいろいろと教えてもらっていたのを思い出す。
庭の剪定に使う梯子が外の納戸にあるのを知っているんだ。
梯子を持ち出し、窓に向けて設置したものの、あたしってば…。
きっともっとスマートだったらこんなことにならなかったのに。
細窓の開け、狭い隙間に入り込んだものの、今現在、胸でつかえて挟まっている状態。
少しやせたはずなのにどうしてこうなっちゃうんだろう。
どうにかこうにか身体をゆすっていると急に弾みがあり、勢いがついて落下。
ばっしゃーんと音を立て浴槽のぬるま湯が飛び散っちゃいました。
ああ、下が地面じゃなくて良かったと思ったものの、本日2回目の落下です。
びしょ濡れのパジャマを脱ぎ捨て、勝手知ったるお風呂場のバスタオルを1枚借りちゃおう。
下着にバスタオルを巻いただけの姿でそおっと浴室から室内の様子を伺います。
1階はマサさんたちの部屋もあるから物音に気付かれなかったか心配だったけど大丈夫そう。
そおっと2階への階段に向かっていくものの、見つからないかと心臓がドキドキしている。
足音をできるだけ立てずにあたしにしては忍び足が上手に出来てると思う。
あとは無事におにいちゃんの部屋に入れればいいけど、廊下からノックなんてできない。
ここは本館に繋がってるから余計に緊張してしまう。
だけど、その緊張感があたしには珍しく勘を冴えさせてる気がする。
専属やってた頃のシャワー室。タオル替えで何度も訪れたここはおにいちゃんの部屋に直接つながっている。
素早く忍び込むとおにいちゃんの部屋へとつながるドアの前に立つ。
あと少し、あと少し。
ドアを叩く前の握りこぶしが震えている。
もうすぐ、おにいちゃんに会えるんだ!
高まる気持ちをドアにぶつけた。




