表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報3 ~兄妹のち恋人!?~
67/85

肩透かしの挨拶

「相変わらず、仕方のない子ね」


 お母さんはため息混じりに呟いた。

 明人さんの放ったひと言が重い雰囲気を漂わせ、シンと静まり返った部屋。

 もちろん喜んで受け入れてもらえるなんて思っていなかった。

 予想もしない人間がノコノコと藤堂家の娘になるって紹介されてる現状。

 嫌いと宣言していたお母さんと共にここにいるんだもの。

 きっと驚いた挙句に嫌われるんだろうって。

 だけどあんな風に言われるなんて考えもしなかった。

 嫌われるより最低な、人としての価値。 

 あたしは今、そんな人間なのかもしれない。

 何もかもを投げ捨ててここにきてしまったもの。

 でも安易に出した選択肢じゃないって強く言える。

 おにいちゃんが好きなこと、だからこそ会いたかった。

 嘘偽りのないあたしの気持ち、それは真実。

 会えないことで一生後悔するより、一日でも早く会いたかった。

 もう10年前のような出来事は二度と嫌。

 あたしだけが何も知らずにじっとなんかしていられない。

 そのことしか考えられなかったあたしは突き進むしかない。

 例え誰かを傷つけてしまうことになっても…。

 ごめんなさい、明人さん。


「ちょっと好きにさせすぎたかしら…」


 背後でお母さんがぶつぶつと独り言。

 明人さんがいなくなった後にはぼんやりと映るおにいちゃんの姿。

 その場から動いた様子もなく、驚いた表情から無表情に変わっていた。

 …もしかしておにいちゃんもそう思ってる?

 あたしの意思でここにいることが軽蔑に値するって。人として最低だって。

 下手すると恋人として見れなくなったかもしれない。

 でもおにいちゃんなら分かってくれるよね?

 ずっとずっと会えなかった1ヶ月以上の日々。

 どうしてここにいるのかをちゃんと説明すれば、きっと。

 もう自己紹介も終わったんだし、目の前にいるおにいちゃんと話さないと。

 そう思って近づこうと一歩を踏み出した。

 おにいちゃんを近くで見たい。そして再会したって実感したい。

 だけどそれ以上、進むことが出来なかった。


「葵? そろそろ行きましょう」


 お母さんから肩をつかまれ、踏み留まる。


「事前に伝えておいたでしょ? 今日は特に忙しいって」


「でも…」


「あなたのために人を待たせてあるのよ。予定通りに行動しないとね」


 きりっとした態度で笑いかけるお母さんは昔の面影を漂わせる。

 これ以上ぐずぐずしていると怒らせてしまうかもしれないという不安が過ぎる。

 どうしても小さな頃に染み付いてしまった恐怖心は簡単に消せない。

 まだおにいちゃんとひと言もしゃべってないのに。


「さあ、葵」


「…あっ」


 後ろ髪惹かれる思いで部屋を後にした。 


「奥様、葵様、お待ちしておりました」


 部屋を出てすぐ1階の広間へと移動する。

 そこにはワンピとエプロンの女性たちと黒スーツ姿の男性たちがびしっと一直線に整列。

 両端には見慣れた懐かしい姿があった。

 左側の男性の列の一番端は執事の永井さん、右側の女性の列の一番端はマサさん。

 思わず嬉しくなってにこりと笑ったものの、顔色一つ変えずに会釈で返された。


「おはようございます。奥様、葵様」


 列の中央部に立たされた瞬間、目の前の人たちが頭を下げる。

 圧倒される光景に思わず息を呑む。


「おはよう、皆さん」


 お母さんは慣れているように挨拶を返すとその人たちが顔を上げた。


「今日は既に伝えていた通り、藤堂家の娘として葵を紹介します」


 さっきと同じように挨拶するよう促され、あたしは一歩踏み出した。

 緊張ながらに慣れない自己紹介をすると再び礼の波。

 今までと違う空気感に戸惑ってしまう。


「葵様」


「はっ、はい」


 不意に永井さんから声をかけられ、動揺を隠せない。


「本日より、葵様の専属とお付をご紹介させていただきます」


 あたしに専属? お付?


「葵様専属のマリとお付のサチとタエ、そして運転手の林でございます」


 永井さんは軽く咳払いをすると名前を呼ばれた人たちが一歩前へ出る。


「しっかりと勤めさせていただきますのでよろしくお願いします」


 無表情のまま合わせたように声を揃えてあたしに礼。


「は、はい。よろしくお願いします」


 ついつられてかしこまって挨拶を返してしまう。


「それじゃ、あとは頼んだわよ。マリ」


 お母さんがマサさんの隣で一歩踏み出している女性に声をかける。


「かしこまりました、奥様」


 マリさんは会釈するとすぐにあたしに近づいた。


「では葵様、いろいろとご案内させていただきます。どうぞこちらへ」


 促されるまま、規則正しく下げられた頭の列を通り抜けながらマリさんの後を追った。

 あたしの後ろにはお付という二人の姿に挟まれながら階段を上る。


「こちらが葵様のお部屋でございます」


 プライベートルームだと言われる3階まで上り、その一番奥に位置する部屋のドアが開かれる。


「うわぁ」


 用意された部屋は別館の時よりも広く、備え付けてある家具も何だかすごい状態。 

 天井が高くてシャンデリアがぶら下がってるし、ベッドは天蓋付。

 ソファーも何人掛け分あるのってぐらい場所を占めちゃってるし、無駄に広い感じがする。


「あ、あの、この部屋、本当にあたし一人で?」


「こちらが葵様のお部屋でございます」


 笑いもせずにただあたしを見つめるマリさん。

 何だか予想も出来ないことがまだまだ待ってそうな予感。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ