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おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報2 ~恋愛確率80%~
62/85

100%のどんでん返し

 だけど、翌日になってもおにいちゃんは帰ってこなかった。

 しかも連絡がないままその日が過ぎていったんだ。

 何かあったのかな? 昨日の電話は会社からだったし。


「貴裕もああ見えて会社の責任者だからな」


 お父ちゃんがあたしに気を使って助言する。

 もしかしたら仕事関係で何かあったのかもしれない。

 一瞬、不安に陥りかけたものの、何か問題が起こってるんだと思い直す。

 藤堂家にいる時もずっと忙しそうだったし、簡単に終わらないのかもしれない。

 約束したけどきっと3日じゃ片付かなくて連絡しようがないんだって。

 少しでも早く片付けるためにがんばってるんだって。

 そう思ってあたしはおにいちゃんを信じて待つことにした。

 だけど音沙汰がなくなって1週間が経ってしまった。

 新しい月を迎え、天気もすっきりしなくなってきた季節。

 連絡が途絶えたままの状態でさすがに異変を感じる。

 せめてひと言、長引くって連絡をくれれば安心できるのに。

 無理して倒れた…なんて不吉な考えが過ぎってしまう。

 あたしは耐え切れなくなって明人さんに探りを入れていた。

 あの日以来、会ってなかったし、別に変じゃないよね。

 それに寺内さんとわだかまりがなくなった後、どうなったのか聞いてないし。

 きっとうまくいってるって思う。そう願いたい。


「そういえばアイツ、戻ってきたみたいだな」


 会って早々、明人さんは相変わらずふざけた調子だった。

 そして寺内さんのことをうやむやにして話の矛先をそっちに持ってきたんだ。

 あたしは瞬時に飛びついていた。本当に聞きたかったことはそれだから。


「そ、それで? おにいちゃんの様子、教えてもらえないかな?」


「は? 何で」


 おにいちゃんのことを嫌ってる明人さんは冷たい視線を送ってくる。


「だって戻ってきたんでしょ? どうしてるかなって気になるもん」


「ふーん。けどアイツあんまり家にいないんじゃねーの?」


 明人さんは詳しくおにいちゃんのこと知らないようだ。


「そ、そうなんだ。仕事が忙しいのかな?」


「さあどうだろ? ま、失踪していた分のツケがあるのかもな」


 藤堂家に戻ってきたものの、会社に入りびたりなのかもしれない。

 やっぱり責任者と言う立場だと仕事関係で忙しいんだ。

 おにいちゃん無理してないといいんだけど。


「病気とか、してない?」


「さあ」


 関心がない明人さんは気のない返事をする。

 だけどあたしにとっては明人さんが唯一の情報源なんだ。


「もう、その辺ぐらいは関心を持ってよ! あたしはおにいちゃんが心配なんだから!」


 思わず力が入る。言ってからすぐに後悔した。


「…なるほど、ボクをだしにアイツのことを訊き出してるのか」


 明人さんの軽蔑するような眼差しが突き刺さる。


「アイツのことを気にかける葵は嫌いだな」


 あたしは明人さんを怒らせてしまった。

 もうおにいちゃんに関して聞けないことを決定づけた。

 どうしようもない自己嫌悪。

 だけどおにいちゃんのことで頭がいっぱいだったから。

 それから不安な日々と戦いつつ、バレー大会などそれなりに忙しい時間で誤魔化しながらおにいちゃんを信じて待っていた。

 やがて梅雨が過ぎ、音沙汰がなくなって1ヶ月が経ち、7月を迎えていた。

 連絡も無い、明人さんにも訊けないという状況で不安はピークに達していた。

 おにいちゃんが元気でいるか知りたい。様子が分かるだけでいい。

 その意気込みだけで学校帰り、藤堂家に向かっていた。

 いつかきた門扉のインターホンを見て不意に思い出す。

 また門前払いされるのかな? お母さんに怒られるのかな?

 ドキドキしながらベルを鳴らす。でももう引き返せない。


「どうぞ、お入りください」


 恐る恐る名のると予想に反して本館へと快く迎えられ、客間に通された。

 以前と違ったお出迎えに戸惑うあたし。

 落ち着かない気持ちでソファーに腰掛けていると背後から声がした。


「まあ葵、いらっしゃい」


 くせの無いまっすぐに伸びた短い黒髪で色白の肢体。

 スーツを身に纏い、ピンと背筋を伸ばした女性。

 少し前にあった時と変わらずきちんとした様子で姿を現したのはお母さんだった。


「あ、あの…」


 ゆっくりと近づいてくるお母さんに瞬時に身を縮める。

 きっとのこのこと訪ねてきたあたしに対して良くは思ってないだろうから。


「突然訪ねてごめんなさい。だけど…」


 おにいちゃんがいなくなった時、すごく怒っていたことを思い出す。

 泣きそうな気持ちになりながらお母さんを見つめた。


「葵がどうして謝るの? 会いに来て当然でしょ?」


「えっ?」


 意外な反応にあたしは驚く。てっきり怒られるとばっかり。

 それどころかお母さんは今まで見せたことのない微笑を投げかける。


「なあに、私は葵の母親でしょ?」


 あたしの横に腰掛けながら優しい物腰で話しかけてくる。

 いつもあたしを見る度に険しい顔をして声を荒げていたのに、何で?


「待っていたのよ、葵のこと」


 そっとあたしの頭に触れ、ゆっくりと撫ぜた。


「昔は長かったわね」


 お母さんは目を細めて懐かしそうに言いながらあたしを抱き寄せた。 


「私の判断が間違っていたのよね、全て…」


 後悔するような小さな声でお母さんはそう呟いていた。


「お母さん…?」


 あたしはお母さんの変化にどうしていいのか分からなかった。 


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