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おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報
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生着替えにご用心?

 トゥルルル…トゥルルル…という定期的な音が頭の中に響いてきた。

 ――何? 目覚まし?

 無意識に音のする方に手を伸ばす。 

 で、必死にバンバンと押さえつけても一向に音が止まない。


「もう~~ぉ! 何なのよ~~!!」


 ボォ~としながら思い切って起き上がる。

 すると見慣れない風景が飛び込んできた。

 だだっ広い部屋に豪華な家具類が立ち並ぶ。


「そっか」


 そこで案内されたあたしの部屋だと気づく。

 その間にも相変わらず音は鳴り響いている。

 音の正体はベッドのサイドテーブルにある電話。


「…はい?」


「葵様、おはようございます。お知らせしておりました起床時間を過ぎておりますが…?」


 声は昨日の夜あたしを1階のお風呂場まで案内してくれた年配の女性のよう。


「え?」


 受話器片手に近くの置き時計に視線を移せば時刻は8時40分。

 寝ぼけてた頭が一気に目覚めていく。

 確か8時半までにクローゼットにある服に着替えてこの部屋に来いって言われてたっけ?

 あわわわ~~、完全に寝過ごしてる!! 大変だ!!


「す、すいません~~! すぐに行きます」


 ガッシャーンと電話を置くと慌てて飛び起き、クローゼットを開く。

 ガラーンとした空間からハンガーにかかった黒と白のコントラストが目に入った。


「…これに着替えろって事?」


 取り出してみると黒いワンピースだった。

 デザイン的に襟と袖口が白く切り替えてあって襟元にはプクンとした3つのボタンが付属。

 何だかシンプルな服。

 さらに奥にもう一つハンガーにかかったシロモノ。 

 フリル付きの…、真っ白の…、エプロン…?


「これだけしかない…」 


 とにかく言われた時間はとっくに過ぎてるんだし、さっさと着替えなきゃ!

 今の姿は風呂上りに脱衣所に用意されてたシルクのネグリジェ。

 スルルと捲り上げるとがばっと脱ぎ捨てた。

 そしてワンピースの後ろにあるファスナーを下ろし、片足を踏み入れた瞬間、


「へぇ~、思ったより身体は成長してるんだな」


 予期せぬ声が降ってきた。

 振り返るとパジャマにガウンを羽織った、おにいちゃん?!


「お、お、おにいちゃん?!」


 下着姿で前かがみに片足を突っ込んでる姿のあたし。

 これってものすご~~く、恥ずかしいんじゃ?

 そこで何か言おうとした途端、


「時間が無いんだろ? 急げよ」


 言われて慌てて両足を突っ込み、たくし上げてワンピースを着込む。

 ―だけどだけど、何で部屋の中にいるわけ?

 後ろのファスナーに手が回らずにあたふたとしてたらぬっと手が伸びてきた。

 いつの間にかそばに来ていたおにいちゃんがジッパーをすっと上げた。


「次はこれ」


 ハンガーから取り外したエプロンを渡され、言われるがまま、前に掛ける。

 即座におにいちゃんが背後でチョウチョウ結び。


「こんなもんだろ」


 顎に手を当てながら上から下に視線を移したおにいちゃんがニヤッと笑いながら呟いた。

 状況を飲み込めないあたしはようやく言葉を口にする。


「あのねぇ、おにいちゃん…」


 言いかけるあたしにおにいちゃんはぐっとひとさし指を突き出す。

 指先を追えばクローゼットの一角にある大きな鏡。

 そこに映し出されだすあたしの姿。


「な、な…」

 

 映画かテレビで見たような、黒のワンピにエプロン姿の…。


「こ、これって…」


 今の姿に開いた口が塞がらない。

 ただ鏡越しのおにいちゃんは顎に手を当てたままクスクスと笑ってる。

 まるでメイドさんって感じ。


「…ねぇ、ちょっと、おにいちゃん!!」


 振り返りながら思わず声を張り上げる。

 するとさっきまで笑ってたおにいちゃんの顔が急に引き締まった。


「いいか、葵。これからオレのことをおにいちゃんと呼ぶな。貴裕様と呼べ」


 突然、強い口調で自分の名前を主張するおにいちゃん。

 優しくて丁寧な言い方の昨日とうって変わって別人のよう。


「でも、おにいちゃ…」


「貴裕様だ!!」


 いきなり何が起こったの?今までのおにいちゃんはどこにいったの?

 不安げに見つめる視線の先には厳しい顔をしたおにいちゃん。


「…何で急に」


 おにいちゃんはふぅとため息をつきながら言う。


「葵、指示に従うって誓ったよな?」


 あたしは指切りを思い出し、こっくり頷くだけ。


「…だったらオレの言うことを聞くんだ、いいな?」


 もう訳が解らないよ、どうなってるの?おにいちゃん?


「いいか? た・か・ひ・ろ・様だ、言ってみろ!」


「…た、貴裕様…」


 あたしはしぶしぶ答える。


「よし、それでいい、葵」


 おにいちゃんはニッと笑うと頭を撫ぜた。


「それじゃ下に行け。あとはマサに任せてある」


 そしてあたしをドアの方に向けるとそっと耳元で呟く。


「のちにきちんと紹介するから余計なことを言うなよ」


 ドアに促してスッと片手で開けるとあたしの腰に手を添えてそっと送り出した。

 廊下にすっと押し出されたあたしは頭の中が真っ白。

 後ろでドアがパタンと閉まる音でハッとなる。

 とにかく急がなきゃいけなかったんだ!

 廊下を走りながら沸々と疑問が沸き起こる。

 ――よく考えたら日曜日の朝っぱらからあたし何やってんだ?

 やがて階段に辿り着き、駆け下り始める。

 ――そもそも何でこんな格好で急がなきゃいけないんだろ?

 そんな風に考えながら着慣れない服を身に纏ってたせい?


「うわ~~あ」


 階段の中腹辺りでバランスを崩して転がっていた…。


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