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おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報2 ~恋愛確率80%~
57/85

告白の勇気

 翌朝、練習で体育館に向かう途中、寺内さんの姿が目に留まる。

 そこで昼休みにまた会う約束をした。


「堀川さん、ありがとう。お互いに納得いくまで話せたと思う」


 昨日に引き続き、青く透き通った空。暖かい日差し。

 穏やかな風が流れて寺内さんは柔らかく笑うと瞳を輝かせた。


「…また会うことがあれば話せる気がするわ」


 わだかまりがなくなったようなすっきりとした様子。

 見るからに幸せそうな雰囲気。

 良かった。本当に良かった。心からそう思う。

 これからの二人はどうなるのかは分からない。

 だけど、きっとうまくいく気がする。ううん、うまくいって欲しい。

 ようやく通じ合えたという空気を感じてそう思わずにはいられない。


「寺内さん、良かったね」


 あたしは心からの笑顔を贈った。

 ――おにいちゃんが好き。

 爆発しそうな気持ちを抱え、どうにか押し込め今日がある。

 声に出せない想い。伝えられない恋の代償として二人には幸せになって欲しい。

 それだけが報われない想いの唯一の救いだから。 



 週が明け、ついに中間テストが始まっていた。

 いつもと変わらず、切ないけれどおにいちゃんとの日々がこれからも続いていくものと信じていた。

 だけどそれは密かにやってきていた。梅雨を近づけようとする前線のように。


「葵、今夜出て行こうと思う」


 テスト期間真っ只中の2日目。おにいちゃんは決意したようにあたしに言った。

 突然の申し出にあたしは戸惑いを隠せない。

 おにいちゃんが言うにはここにいることが気づかれている、らしい。


「何かが起こってからじゃ遅すぎる。迷惑が掛からないうちに去った方がいいから」


 あたしはテスト特有の早い下校だったからお父ちゃんはまだ家に帰ってない。

 確かにここ最近、周りの様子がおかしい感じはあった。

 見慣れない人が近辺をウロウロしているとの噂も耳にしていた。

 だけどそれが藤堂家と関係してるなんて思ってもみなかった。


「嫌だ…」


 あたしは即座に訴える。おにいちゃんが出て行くなんて絶対。


「嫌だよ、おにいちゃん。また離れ離れになるなんて」


 ようやく確保したおにいちゃんとの日々。

 気持ちを隠し、一線を置くことによって掴んだ幸せ。

 それさえも望めないの? 


「葵、いつかまた戻ってくるから…」


 その言葉は気休めにしか過ぎないことを肌で感じる。

 きっと出て行ったらもう会えなくなる、そんな気がする。

 多分、おにいちゃんは迷惑をかけないように二度と近づかない。


「ごめん、葵。これ以上、堀川家に迷惑は掛けられない。それにもう藤堂家に巻き込まれたくない」


 向かい合っているおにいちゃんの瞳が悲しげに揺らぐ。

 あたしの知らないおにいちゃんの事情があるんだ、きっと。

 でも会えなくなったらあたし、どうなっちゃうんだろう?

 ほんの少し離れている間にも壊れそうだった、時間。


「葵のことは忘れない。離れていても大事な…、"妹"、だから」


「おにいちゃん…」


 ツンと鼻の奥が痛くなって涙が溢れてくる。

 離れて暮らした日々を思い出し、このまま別れたら後悔する、そう思った。

 藤堂家を出てお父ちゃんとの暮らしの中、こっそりと泣いてばかりだった日々。 

 それはおにいちゃんへの気持ちを抱えていたことに気づいたから。

 お父ちゃんの計らいでここで3人で暮らすようになってからその想いが増すばかり。

 兄と妹という立場を利用して一緒にいることをずっと望んでいた。

 なのに、どうしてまた別れが来るんだろう…。

 悲しみと苦しみと悔しさが入り混じる中、見つめたおにいちゃんの顔。


「…オレは葵の幸せだけを願ってる。最低なオレのことは忘れていいから」


 あたしの頭にポンと手を置き、小さく笑う。

 おにいちゃんを忘れることなんて出来るはずがない!

 今まで押さえつけていた胸の痛みが全身を駆け巡る。


「おにいちゃんのことが、好き…」


 気持ちが高ぶり、あたしは口に出していた。


「あたし、おにいちゃんのことが好きなの。男の人としておにいちゃんのことが、好き、なの」


 おにいちゃんは身動き一つ取れなくなったまま、食い入るようにあたしを見つめた。

 一度溢れ出した言葉は止まらない。蓄積された想いがそうさせていた。


「好きで好きでどうしようもなかった。ずっとずっと伝えたかったの。おにいちゃんのことが好きって」


「…あ、おい?」


 驚かせ過ぎておにいちゃんは掠れた声を発する。

 頭に置いた手が離れ、ズルリと下りていった。


「…だけど言えなかった。言ってしまったらおにいちゃんがもっと離れていきそうで」


 信じられない顔をしたままのおにいちゃん。 


「だって、あたしたち、兄妹だから…。言っちゃいけないんだって」


 禁断の恋、叶わない恋、報われない恋。

 あたしはおにいちゃんの顔が見れなくなっていた。


「す、好きになっちゃいけない相手を好きになってしまったから…」


 留めていた気持ちを吐き出したものの、俯き加減で泣いていた。

 もうダメだ。まともに見れないよ。

 きっとおにいちゃん、あたしのこと変だと思ってる。

 実の兄を好きになる、変な妹だって…。 


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