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おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報2 ~恋愛確率80%~
52/85

想いの半分50%&50%

「ほら、葵。また貰ったから」


 放課後の部室。ジャージに着替えている途中で先輩がバーガークーポン券を差し出した。


「委員長もさ、葵の顔、すっかり覚えちゃってるらしいよ。いつもごひいきありがとうだってさ。わはは」


「はあ、…ありがとうございます」


 あたしは赤くなりながらありがたく受け取ると再び寺内さんの顔が思い浮かべる。

 どう考えても明人さんと接点があったなんて思えないんだけどな。

 だって元々通ってる学校も今は学年さえも違う二人。

 同い年だってことぐらいじゃないかな? 共通点は。

 まさかあたしみたいにメイドまがいなことをやってたってことはないだろうし…。

 とにかくそんなこと気にしたって分からないものは分からないよ~。

 クーポンを見つめながら一つため息をつく。 


「葵、行くよ。今は部活に集中!」


 真琴ちゃんが急かすように声を掛ける。それもそのはず、放課後のちゃんとした練習は今日まで。


「あっ、ごめん」


 あたしはクーポンをしまうと慌てて追いかけた。

 明日から中間テスト前ってことで放課後の部活は禁止。

 試合が近いから気持ちを維持するため、朝練は行なわれるけど短い時間で限られてしまう。

 思い通りの練習が出来るのは今日とテスト開け、だもんね。

 ペースを保ちたい気持ち、すごく分かるもん。

 だって練習試合の度に勝利して調子がいいからね。

 あたしは応援専門? だけど…。

 真琴ちゃんが言うにはある日を境に輪を掛けるように応援が激しくなったんだって。

 それはおにいちゃんが家に居るようになってからだと思う。

 おにいちゃんが居てくれる。その安心感がかけがえのないものになってる。

 きっと暮らし始めた頃よりずっと想いが蓄積されているんだ。

 日増しに好きになる気持ちは止められない。

 おにいちゃんしか見えてない。だからこそそばに居て欲しい。

 ずるいあたしは留めておくことしか考えていない。

 ずっとずっとこの日々が続きますようにと願ってるだけ。

 …いつまでもこの状態を続けちゃいけないんだと感じつつ。

 だけど、昼休みの咲ちゃんの言葉。

 禁断の恋、叶わない恋、報われない恋…。

 好きな気持ちだけが先行してそんなこと考えてもみなかった。

 あたしの抱えているこの想いは誰も知らない。

 それが恋だと気づくのが遅すぎた。

 再会して昔と違うおにいちゃんを目の当たりにしてドキドキした。

 離れてみて昔に抱いていた想いとは明らかに違うと感じた。

 そのことに気づくのが遅かったあたしの恋。

 誰にも言えず胸にしまったままの想い。

 好きで好きで仕方が無い。

 例え許されなくてもこの想いは止められない。


「葵、何ぼけ~っとしてるの! ラリーするよ!」


 急に先輩の声が響き渡る。


「は、はい!!」


 今は部活だけに集中して気を紛らわさなきゃね。

 胸に残るモヤモヤを誤魔化せる唯一の時間。

 おにいちゃんのことも咲ちゃんの言葉も忘れるひと時。

 そうでもしないとあたしの気持ち、爆発しそう。



 ようやく部活も終了し、おにいちゃんの待つ家へと急ぐ。

 最後の練習だからって気合が入りまくってすっかり遅くなってしまった。

 もう御飯、食べ終わってるんだろうな。

 体力を使い果たしたあたしはお腹ペコペコ。 


「ただいま」


 いつもの調子で家に入ると靴を脱ぐ。そして真っ先におにいちゃんの顔を見つける。


「おかえり、葵」


 おにいちゃんはちょっとだけ元気の無い様子で迎える。

 どうしたのかなと思いつつ、何となく物足りない室内に気づく。


「あれ? お父ちゃん、まだ帰ってないの?」


 普段なら帰宅済みのお父ちゃんの姿がない。部屋にはおにいちゃん、一人。

 いつもより遅くなったから帰っててもおかしくないのに変。


「…ああ、実は」


 言い難そうにおにいちゃんはあたしを見る。


「今日は急な仕事で遅くなると連絡があった」


「…そ、そうなの?」


 あたしは驚きながらおにいちゃんを見つめ返す。

 真っ直ぐに向けられた瞳にドキンとしてしまう。

 お父ちゃんが帰るまで意識しないように気をつけなきゃ。


「それより葵、腹減ってるだろう? 夕食にしよう」


 おにいちゃんは卓上に並べられた食事を見ながらあたしを促した。


「う、うん」 


 お父ちゃんが居ないと聞いて何となく緊張してしまう。

 とにかく早く帰ってくることを願っちゃうよ。

 夕食が済み、お風呂から上がると突然電話が鳴り出した。

 おにいちゃんより一足早く出てみるとお父ちゃんからだった。


「葵か? すまんな。実は今、長距離走ってるんだ。ほら、青木のところで子供が産まれそうだから代わってやったんだ」


「えっ?」


 時折、雑音が入って聞こえにくいのは携帯からの様子。


「明日の昼には帰るが今日は泊まりだ。いや、貴裕がいてくれて助かった。一人だと心配だからな。…それじゃあな、あとは頼んだぞ、葵」


 そうやって一方的に電話が切れるとあたしは受話器を持ったまま、固まる。


「どうした? 葵」


 呆けているあたしにおにいちゃんが声を掛ける。

 嘘、どうしよう? いきなりそんなことになるなんて。


「うん…あのね、お父ちゃん、今日、帰ってこれないんだって」  


 …だから今夜はあたしとおにいちゃんの二人だけってこと。


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