表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報2 ~恋愛確率80%~
49/85

秘密だらけの外出談話

「それじゃあ、夕方頃訪ねるから」


 バーガーショップを出た後、咲ちゃんと真琴ちゃんは足早に去っていく。


「う、うん、また後でね」


 協力すると言ってから二人で何やら相談して決めた後、あたしの家に来ることになった。

 おにいちゃんの体型とか訊かれたけど何の関係があるのかな?

 あたしは首をかしげながら店の前から離れようとした。

 その時、目の前に見慣れた車が通過した。


「あれ?」


 目で追っていくとあたしたちがさっきまでいた店の駐車場に入っていく。

 もしかしたら…? と確かめるべくそっと向かってみる。

 店の裏にあるその場所には黒塗りのベンツが停まっていた。

 後部座席のドアが開き、中からこの間会ったばかりの人物が出てくる。


「やっぱり、明人さんだ!」


 嬉しくなり、声を掛けようかなと近づいているとちょうど店の裏手から誰か出てくる。

 その人を待っていたかのように明人さんは近づいていった。

 思わず立ち止まり、近くの車に身を隠す。


「里美!」


 明人さんにそう呼ばれた女性は驚いた様子。


「何度言ったら解るの? あなたとはもう関係ないのだから!」


 強い口調で言い放つとその人は素早く走り去る。

 あたしが隠れていた車のそばを走り抜け、過ぎ去るその顔を見て驚く。

 だってさっきバーガーを運んできた店員さん、だったから!


「待てよ、里美!!」


 明人さんの呼び止める声だけが駐車場に響いていた。

 ――明人さんとあの店員さん? 知り合い、なの?

 無常にもその人の姿は遠ざかってしまい、残された明人さんは立ち尽くしたまま。

 そしてしばらくした後、明人さんの車が動き出し、駐車場から出て行った。

 あたしは身を隠したまま、その様子を見守っていた。



「ただいま」


 意外な光景を目の当たりにしたあたしはただならぬ予感がして胸がドキドキしていた。


「おかえり、葵。…どうかしたのか?」


 おにいちゃんは不思議顔で問う。お父ちゃんは仕事でまだ帰ってないみたい。

 さっき明人さんが…と言いかけて止める。

 身を隠してる今の現状で藤堂家のことはタブー。

 それにおにいちゃんと明人さんの関係もいい方じゃないし。


「あ、あのね、後で友達が訪ねてくるんだ」


 何をするのか判らないけど、咄嗟に思い出して良かった。


「それじゃあ、オレは邪魔だな」


 少し考えた後、おにいちゃんは唯一持っていたカバンを掴むと立ち上がる。


「ち、違うの! おにいちゃんに用があるの」


「…オレに?」


 不審そうな顔をしてあたしを見つめた。


「お、おにいちゃんに協力してくれるんだって!」


 あたしは必死でそう言うと引き留めた。

 おにいちゃんが出て行こうとしたことが衝撃で。

 機会があれば去ろうとしているおにいちゃんの行動がショックだった。


「だから、おにいちゃんはここに居ないとダメ! ダメだよ!」


「…葵、わかったよ」


 おにいちゃんはため息混じりに呟く。

 会話が出来るようになったけどやっぱり割り切れないものが存在する。

 根底ではギクシャクしてるって判っていても誤魔化しながら日々を過ごしていた。

 いつかちゃんと向き合って話しをしないといけないと解っていて避けている。

 あたしがそうさせているのは確かかもしれない。

 留めるくせに真実を知ろうとしない、逃げ腰のあたし。

 おにいちゃんはきっと苦しいと思う。ちゃんとした謝罪をさせないあたしと居て。

 ごめんね、おにいちゃん。好きだから聞けないでいる。

 謝らせたらおにいちゃんが完全にあたしの前から姿を消すような気がするから。

 どんな理由であれ、10年前みたいなお別れは嫌だから。

 おにいちゃんと離れたくない気持ちは本物だから。



「葵、ただいま。あれ、お客さんかい?」


 夕刻、お父ちゃんが仕事から帰ってきた。


「こりゃ、どーも」


 お父ちゃんはあたしと向かい合って座る人物に軽く会釈したあと、手招きする。


「…オイ、貴裕はどうした?」


 おにいちゃんが見当たらないと小声で問いかける。


「え、えーと」


 あたしは頭をぐしゃぐちゃと撫ぜながらそっと指をさす。

 お父ちゃんの目が点になる。それもそのはず。

 あたしだって何でこうなったのか信じられないんだもん。

 今、身動き一つ取らないでじっと座っている人物こそ、おにいちゃん。

 少し前に咲ちゃんと真琴ちゃんが訪ねてきた結果だもん。


「た、貴裕なのか?!」


 驚きの声を上げるお父ちゃん。

 おにいちゃんは何も言えずにうな垂れたまま。

 ロングストレートの黒髪、フェミニンなワンピース。知的な眼鏡に美しい顔。

 …どう見ても綺麗なオネイさん!!!

 咲ちゃんと真琴ちゃんがね、自由に外出するにはこれしかないって…。

 どう説得したのか知らないけど、こんな風に変貌を遂げたおにいちゃん。


「な、なんでまた…」


 お父ちゃんは腰を抜かしながらもおにいちゃんを見つめる。


「えーと、ええっと」


 あたしはかいたことのない汗をかきながらお父ちゃんに説明する。

 すると終始黙ったままだったおにいちゃんが突然立ち上がった。


「葵、行くぞ」


「え、えええ!」


「用が済んだらすぐに帰るからな」


 おにいちゃんは恥ずかしそうに言うと靴を履き始める。

 あたしは財布を掴みながら慌ててあとを追う。


「…き、気をつけてな」


 お父ちゃんの声が背後から聞こえた。

 おにいちゃんとの奇妙な外出が繰り広げられた日。

 大量のお買い物と堂々と二人で並んで歩いた短い時間。

 ほんの少しだけ、幸せを感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ