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おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報2 ~恋愛確率80%~
48/85

犯罪疑惑44%

「最近の葵、つき物が落ちたみたいに明るいよね?」


 咲ちゃんが不思議そうにあたしを見る。


「うん、咲ちゃんや真琴ちゃんのおかげだよ。今のあたしでいられるのは」


「ワケ解んないんだけど?」


 真琴ちゃんが首をかしげる。

 おにいちゃんが留まってからの最初の週末。ポカポカ陽気の土曜日の午後。

 練習試合後のバーガーショップで寄り道。

 咲ちゃんにも来てもらって先輩から貰ったクーポン券を利用してちょっと腹ごしらえ。

 本当ならおにいちゃんの待っている家に早く帰りたいけどね。

 あたしの様子の変化は二人にばれてるみたいだし、少しは落ち着いたからちょっと話してもいいかなって思えて。

 心配掛けてたからこうやって時間を作ってもらってゆっくりと。

 お詫びの意味を込めて誕生日の前祝をしてもらった場所で。

 週末の昼過ぎってことで店内は慌ただしく賑わっていた。

 注文してからバーガー類を作り始める手作り感が売りのお店。

 列をなしているカウンターではテキパキと店員さんが対応していた。

 その隣にあるガラスで区切られた厨房では手早く調理に取り掛かる店員さんの姿もある。


「7番の番号札でお待ちのお客様」


 注文してから10分。ニコリと笑いながら歳が近そうな店員さんがやってきた。


「は、はい!」


 思わず挙手してしまうあたし。咲ちゃんと真琴ちゃんが恥ずかしそうに笑う。


「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」


 清潔感溢れる制服を身につけ、しっかりとした印象の店員さんは丁寧にトレーを置く。

 そして背筋を伸ばしてゆっくりと会釈をするとそのまま身を翻していった。

 毎度のことながらそのきちんとした動作に感動してしまう。

 だって老若男女問わず、必ずこの対応なんだもん。

 忙しそうな時だって慌てふためくわけでもなくってだけど素早く行動って感じですごい。

 …あたしが藤堂家でメイドまがいのことしてたけど、全然。

 きっとこのお店の人たちなら明人さんの言ってた基準値に達するんだろうな。

 特に今、トレーを運んでいた店員さんなら絶対にマサさんが太鼓判。

 うう、自己嫌悪。よくおにいちゃんはあたしを専属と納得させたものだ。

 そんなおにいちゃんも今はあたしと一緒に住んでいる。

 日が経つにつれ、ようやく会話らしきものができるようになった。

 普段のやり取りで当たり前の話が出来るようになったのが嬉しい。

 顔を見て笑って少しからかわれてちょっと触れられる。

 だけど頭の上とか肩とか手を置かれる度に心臓が跳ね上がる。

 今まで普通に接してた動作なのにおにいちゃんが触れているって感じるだけでドキドキする。

 意識しちゃダメと思いながらも触られるとぎこちない態度をとってるかもしれない。

 おにいちゃんを好きな気持ちがどんどん深くなってる証拠。


「葵、食べないの?」


 真琴ちゃんは驚いた様子で声を上げる。


「ぼおっとしながらにやけてる、大好きな食べ物を目の前にして」


 咲ちゃんは鋭い視線を投げかける。


「えへへ、食べますってば」


 あたしはバーガーを掴むとひと口頬張った。


「それで? 突然口元を緩める原因となった事情を話してくれるんでしょ?」


 バーガーを食べ終え、一息ついたところで咲ちゃんが切り出した。


「うん、これは絶対に秘密なんだけど…」


 あたしは二人に近づいて声を潜める。二人とも急に真剣な表情。


「実はね、…おにいちゃんをかくまってるの」


「ええ?」


「はあ?」


 二人は拍子抜けした声を上げ、訝しげにあたしを見る。


「…意味わかんない。というより葵に兄弟がいたの?」


「うん。10年前にね、お父ちゃんが離婚しちゃったからそれからは一人だったけど」


「…ゴメン、知らなかったから」


 咲ちゃんは罰の悪そうな顔で謝る。あたしが言ってなかっただけなのに。


「で、どうしてかくまってるの?」


 真琴ちゃんは声を細くし、あたしを見つめる。


「よく分からないけど落ち着くまで隠してるっていうか、行方をくらませている手伝いをしてるっていうか…、う~ん?」


「…へえ、何だかすごく怪しい感じ」


 真琴ちゃんと咲ちゃんはマジマジと見つめ合う。少し沈黙。


「あっ、でもそれだったら外に出れないんじゃない、お兄さん?」


 咲ちゃんは空気を変えようと強張ったまま笑う。


「そうなんだ、買い物にも行けなくて。お父ちゃんのものとサイズが合わないからちょっと困ってるけどね」


「ははは、葵ん家も大変だね?」


 真琴ちゃんもひきつった笑い。何か変なこと言ったかな?


「だけど今は帰ったらおにいちゃんが居てくれるから嬉しいんだ。おにいちゃんに会えるから早く家に帰りたいって思うしね」


 そう言うと口元が緩む。おにいちゃんのことを想うと心が満たされるんだ。


「…葵?」


「とにかくね、咲ちゃんと真琴ちゃんのおかげでおにいちゃんに会うことが出来たんだ。だから二人ともありがとう」


 あたしが笑ってそう言うと二人は再び見つめ合ってヒソヒソ。

 何だろうと思いながらポテトを頬張っていると二人はあたしに向き合った。


「葵、何に巻き込まれてるか知らないけど、協力するよ」


 咲ちゃんと真琴ちゃんは力強く胸を叩いた。


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