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おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報2 ~恋愛確率80%~
44/85

25%の際どい遭遇

「やっぱり葵だ」


 明人さんはそう言うと内側から車のドアを開く。


「乗って」


 その誘いに躊躇する。明人さんには危険がつきもの。

 これまでの行いの数々にあたしを困らせていた張本人。

 だけど立ちつくしていたのはおにいちゃんのことが訊けるんじゃないかなって。

 思い切って乗り込んだらちょっと後悔した。

 だってゆったりしてるとはいえ、狭い密室。

 あのキス未遂事件は壁際に追い詰められたんだった。

 今回は動く車内の中、ちょっとやそっとじゃ逃げられないよね。

 運転席との間には仕切りがあり、走り出した車は簡単に止まらないのに。

 極力、明人さんとの隙間を開けながら1ヶ月ぶりの姿を見る。


「葵も舞原第一なんだ」


 明人さんは驚いたようにじっと制服姿のあたしを見る。


「う、うん?」


 何であたしの高校を知ってるの? と疑問に思いながら首をかしげる。

 修美院学園の地域とは全く異なる場所なのに。

 多少、野球とバレーが強いってぐらいのごく普通の高校なんだよ?

 まさか、去年いたってことはないだろうし…。


「そっか、はは」


 少し嬉しそうに笑う明人さん。何だか変。

 ほんの少しだけど遠くを見ているようなそんな感じ。


「学校帰り? どうやってきたんだよ、タクシーか?」


 まさかお父ちゃんと二人で暮らしでそんな贅沢なこと出来る訳ない。


「ううん、走ってきた」


「走ってきたって…ここまでどれだけあるんだよ」


 体力だけがとりえのあたし、多少迷いながらどうにか辿り着いた。

 ただおにいちゃんのことが知りたい一心で。

 立ち止まったままの自分が嫌だったから。

 一歩踏み出そうって勇気をもらえたら藤堂家に向かってた。

 まずはそうすることで進める気がしたから。

 だけど実際、おにいちゃんのことは分からずじまいで追い返されちゃったけど。


「ま、そういう見当違いなところ、葵らしいって感じだな」


 呆れたように呟くとクスクスと笑い出した。

 笑う話じゃないのに、やっぱり訳のわからない人。

 だけど少しだけ明人さんに振り回された頃の雰囲気に戻れた気がした。

 あの事件が起こる前までのからかわれてた日々。

 バタバタしてたけどこんな風に笑われてたっけ、あたし。

 少しだけ切ない気持ちになった時、明人さんの笑い声が止んだ。

 そして大きなため息をつき、しばらく沈黙が続いた。

 無言の車内に気まずい空気が流れる。

 間が持たなくてあたしは窓の外を眺めていた。

 どこに向かってるんだろう、今。


「…葵」


 ぼんやりそんなことを考えているとトーンを落とした声で突然呼ばれる。

 振り向くと顔を隠すようにうな垂れた明人さんの姿。


「葵、…ごめんな」


 ポツリと呟くようなか細い声。


「あ、明人さん?」


 見た事のない雰囲気に逆にあたしが戸惑ってしまう。

 いつもふざけていた明人さんが謝ってる?


「…あんなつもりじゃなかったんだ」


 顔をこっちに向けないまま、耳を澄ませないとはっきりと聞き取れない声。


「ちょっとアイツらを困らせてやろうって…」


 明人さんは後悔しているようにも見える。


「葵が追い出されるなんて考えもしなかった…」


「明人さん…」


「アイツらが嫌いだからさ、喧嘩してもめればいいんだって。特に和美なんか親父に嫌われて追い出されればいいのにって勝手に思ってさ」


 吐き出すようにそう言うと小さくため息をついた。


「ろくに知りもしないアイツらに首を突っ込んで結果葵で片付けてるんだから実も蓋もないよな」


 明人さん、本当は悪い人じゃないのかも? 騒がせたり困らせたりしてても。


「…和美のやり方、分かってたのに、バカだったよな」


 嘆きながら膝を叩くとこぶしを握り締める。


「葵がいなくなって家の中、張り詰めた毎日が戻ってきてさ。アイツの様子も何か変だったし、息苦しくて仕方が無かった。取り返しのつかないことをしたかなって気づくのが遅すぎた」


 微かに震える姿に息を呑む。


「…ホント、いつもこんなことを興してしまうどうしようもないヤツなんだ、ボクは」


 明人さんの深い闇を見た気がした。

 どう伝えていいのか分からない。だけど明人さんはすごく反省している。


「えっと、明人さんのせいじゃないよ」


「…気休め言うなよ」


「気休めなんかじゃないよ。で、出て行くって決めたのはあたし、なんだもん」


 そう、今の生活に戻るって頷いたのはあたし。

 どんな形であれ、藤堂家のことを忘れるという条件で。

 こんな風に苦しむ原因を作ったのは結局あたしなんだ。


「…だから明人さんのせいなんかじゃないよ」


 バカな自分に情けなくなって涙が出てきた。

 元の生活を選んだのもあたし、今の現状に苦しむのもあたし。

 おにいちゃんがいなくなったのもあたしが原因かもしれない。

 藤堂家という大きなものを抱えてたおにいちゃん。

 何も知らないあたしはお母さんの言うように泥を塗ってのかもしれない。

 兄妹ということを隠すことで別館に住めたあたし。

 あたしの存在そのものが藤堂家にとって知られてはいけなかったのかもしれない。

 再婚したお母さんに娘が、おにいちゃんに妹が居たってことが、もしかしたら。

 こんなこと今頃気づくなんて。本当にバカなあたし。


「ごめんね、明人さん」


「…何で葵が謝るんだよ」


 顔を上げた明人さんは泣いてるあたしに気づく。


「アンタは何も悪くないのに」


 明人さんはそう言うとそっとあたしを包み込んでいた。


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