予想外の再会
グレー色のスーツに身を包み、長身の男の人がドアの付近に立っていた。
「おい、葵、分からないのか?」
ぽか~んとしているあたしにお父ちゃんが驚いていた。
「…え? え~と?」
「10年ぶりだから仕方がないですよ」
その人は苦笑気味に言いながら近づいてきてあたしの目の前に座った。
栗色の癖のある柔らかそうな髪。
眩しそうに見える切れ長の瞳。
すぅーと通った鼻筋にきりりとした唇。
ぱっと見、王子系ってこういう人を言うんだろうなぁ。
だけど色白で茶色がかった瞳の色でどこかしら華奢な感じ。
でもって見覚えのあるような、ないような…?
思わずジッと見つめてしまう。
それに答えるかのように微笑む目の前の男の人。
あたしの中の脳みそがフル回転し、何かビビッときた。
「も、もしかして…? お、おにいちゃん…?」
恐る恐る尋ねる。間違ってたら恥ずかしいし。
「正解。葵は変わってないね」
クスクスと笑い出す見違えたおにいちゃん。
だってだってね、最後にあった頃と全然違うんだもん!!
「…本当に、おにいちゃん、なの?」
「葵も驚いただろ? ワシも最初は気づかなかったからな」
「お蔭様であの頃のボクとは違いますよ」
にっこりと笑いながら答えたその言葉は何となく重みがあった。
それもそう10年前のおにいちゃんはこんなに健康そうじゃなかったから。
あたしとおにいちゃんは10年前に離れ離れになった。
忘れもしない幼稚園の頃。
6つ年上のおにいちゃんは小学校6年生。
病気のため身体が弱くていつも青白い顔をしていた。
何かの拍子で起こる発作で何度も死にそうになった。
そのため運動は禁止されてたけど、その分ものすごく頭が良かった。
いつも本を読んでくれたり、お母さんの代わりにそばにいてくれた。
あたしはおにいちゃんが大好きだった。
身体が丈夫な分、おにいちゃんを守らなきゃいけないとも思ってた。
大好きなおにいちゃんが死ぬのが嫌だったから。
早く元気になれればいいなと願ってた。
そしてその願いが叶う時が訪れた。
外国で手術をすれば元気になれるって。
治ったら一緒に走り回ろうねって約束してお母さんと共におにいちゃんは旅立った。
何度か手紙を出したりしてたけど、いつの間にか連絡が途絶えていた。
数年が経過し、不思議がるあたしにお父ちゃんは離婚の事実を伝えた。
以来、約束も果たせぬまま、それっきり。
「積もる話もあることですから場所を変えましょう」
おにいちゃんはそう言うと立ち上がった。
いろいろと想い出していたあたしは思わず抱きついていた。
「おにいちゃん、良かった! 元気になったんだね」
「葵…」
「すっごく心配してたんだよ。ずっとずっと」
言って見上げたおにいちゃんの顔、困惑した感じ。
だけどすぐににっこりと微笑んで一瞬、ギュッと抱きしめた。
「ありがとう、葵」
そうして足早に部屋を出て行った。
カコーン。
斜めに切り込みのある竹筒に水が溜まって流しだした拍子に石に当たって音が響く。
「ししおどしっていうんだよ、葵」
所変わって車を走らせること、1時間。
山の中にひっそりと佇んだ歴史を感じさせる和風な建物に到着。
引き戸が開かれると広い玄関に着物を着た女性がずらり。
中でもひと際綺麗な女性が、
「お待ちしておりました。藤堂様」
と上品にご挨拶。
女将と紹介されたその女性に付いて行く途中の廊下でその音が響いてた。
きちんと手入れされた植木に敷石が敷いてあった庭にひっそりとそれがあった。
「えっ? 獅子って…ここはライオンが出るの?」
随分と山奥だったしね。居てもおかしくないのかな?
おにいちゃんはニッと笑い、女将は苦笑しながら案内を続けた。
「どうぞ、こちらへ」
開かれた障子からい草の香りがプーンと漂ってきた。
真新しい畳っぽくてまだ鮮やかな緑色が綺麗。
「いい部屋だね」
おにいちゃんはそう言うと室内に入っていった。
あたしとお父ちゃんは場違いなところに来たって感じで廊下に突っ立ったまま。
「どうぞ、中へ。今お茶をお持ちします」
座布団を敷いて女将は出て行った。
「足を崩してくつろいでください」
お父ちゃんと共に座布団の上でピシッと正座をしたまま構えてる。
そんな様子を見たおにいちゃんは苦笑気味。
「いやあ、慣れない場所だからなぁ」
おどおどしながらお父ちゃんは足を崩していた。
「そんなに緊張していたらせっかくの夜が台無しですよ」
「そうか、しばらく会えなくなるんだったな…」
お父ちゃんはあたしを見ながら頷いた。
予期もしてなかった言葉に戸惑いが生じる。
会えなくなるって、一体、どういうこと?
不安げに2人を見つめる背後にはまたあのししおどしが響いていた。