薄れる気持ち0%
快晴続きの5月のゴールデンウィーク。
あたし、堀川葵はジャージ姿で学校へと向かっていた。
休日とはいえ、地区ベスト8を誇るバレー部はあるんだもん!
しかも今日は親睦試合とかであたしの学校で開催される。
万年補欠でも応援はピカ一って褒められてるからがんばらないとね!
ショートカットで背が高くて筋肉質な体型に赤いユニフォーム姿が目に映っている。
真琴ちゃんがレギュラーとして出場するんだし、張り切っちゃうもん!
…そうやって気を張ってないとすぐに落ち込んじゃうんだ、あたし。
「真琴ちゃ~ん、ファイト~~!!」
試合が始まり、大声を張り上げる。
親睦とはいえ、6月に大きな試合を控えているからかなり真剣そのもの。
体育館ではシューズとボールの音が響き渡り、時折歓声が上がる。
周囲には相手校以外にもギャラリーがいて賑わっていた。
その中に長い髪を二つに束ねた小柄の咲ちゃんの姿もある。
活気溢れた連休の最終日。
白熱したゲームが繰り広げられ、しっかり応援。
今のあたしが出来る精一杯のこと。
ガンバレガンバレってホントは自分のことを励ましてるのかもしれないけど。
藤堂家から離れて早2週間。
すっかりいつもの生活が当たり前のように繰り返されている。
お父ちゃんとの暮らし。学校と部活の日々。
逆にあの2ヵ月半が夢だったのじゃないかって気がしてくる。
だけどふとした時に込み上げてくる想い。
ぎゅっと締め付けられて切なくなる。
いつでも常におにいちゃんに会いたいと思う気持ち。
決して消えることのない想い。
周りに迷惑をかけてまで嘘をついていたおにいちゃん。
それが何のためでどうしてなのかは未だに分からない。
裏切っていたおにいちゃんを許せない気持ちもある。
その反面、信じてる気持ちもある。
途切れた言葉、そして最後に一瞬だけ合った瞳が忘れられない。
今更だけど何か理由があったんじゃないのかなって。
あの時は気が動転してて分からなかったのかなって。
でも否定もせずに謝ってたおにいちゃん。
悲しげでそして苦しそうにも見えた表情で。
時間が経てば経つほど、おにいちゃんとの楽しかった日々を思い出す。
それは絶対に嘘じゃないんだって。
あの二人で過ごした時間は本物だったんだって。
…そう思わないと押しつぶされそう。
全てが偽りなんて悲しすぎるから。
もう会えないし、戻れないことを解っているから。
おにいちゃんへの想いは薄れることがないと感じているから。
「今日も葵、気合入ってたね~」
先輩たちが嬉しそうにバシバシとあたしの肩を叩いていく。
試合結果は応援の甲斐もあって快勝。
この調子で6月までがんばっていこうと意気揚々。
すごくチームがまとまってる気がした。
「はいっ! これからも応援、がんばります!!」
あたしが張り切って答えると大爆笑が起こる。
「葵~、嘘でもレギュラーで試合に出れるよう頑張るってことがないわけ?」
真琴ちゃんが首にタオルを巻いたまま呆れ口調。
「あっ、そっか」
「…全く、葵ってば相変わらずなんだから」
活躍の証である汗を光らせたまま苦笑する。
「…けど、応援、サンキュ!」
Vサインでそう言うと真琴ちゃんは部室に向かっていた。
体育館の入り口付近で咲ちゃんが手を振っている。
3人揃って帰る約束をしてたから待ってるって合図。
まばらになった試合後の体育館にはまだ熱気が残っている感じがした。
1年生が後片付けをし、慌ただしい中、不意に取り残されたような感覚に陥る。
何もかもが息づいていて活気づいてるはずなのに突然の空虚感。
ダメだよ、会えないんだから!
あたしは自分を抱きしめるようにして首を振ると体育館を後にした。
「せっかくの連休も部活で終わったみたいね」
咲ちゃんがぽつりと言う。
「まあ、6月の大会まではこの状態だけどね」
真琴ちゃんが当然のように述べる。
「でも毎日充実して楽しいし…」
あたしはニッコリ笑ってそう答えると二人揃って、そう? と首をかしげる。
意外な反応に驚いていると、
「…何か葵、無理してない? 大丈夫?」
「何となく、カラ元気って感じするんだけど?」
何で気づかれるんだろう? 鋭い指摘にドキッとする。
「…な、何でもないよ? いつもと同じだよ」
「そうかなぁ? 最近、ため息ついてばかりだからね」
「そうそう、 前までぼ~っとしてることはあったけどそれがため息だもんね」
そうなんだ。今度から気をつけよう。
「きっと、気のせいだよ、気のせい! ははは」
笑って誤魔化したけどどうも腑に落ちない顔の二人。
「ま、今日は葵の元気の源をゴチするからたらふく味わいなさい」
「今週末の葵の誕生日の前祝いだしね」
「ええ~、ホント?!」
そう言われ、入った手作り感が売りのチェーンのバーガーショップ。
ハキハキとした歳が近そうな店員さんにいらっしゃいませと迎えられる。
好きなものを選んでいいからって何て幸せ!
「…ホント、遠慮を知らない女だわ」
「食欲だけは変わらないよね?」
冷ややかな視線を浴びつつ、バーガーをパクつく。
ささやかな至福の時を過ごしてゴールデンウィークが終わりを告げた。




