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おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆予報 ~「おにいちゃん☆注意報」番外編~
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葵ちゃん、失踪事件ファイル~真琴ちゃん編~

「真琴ちゃん、急用で部活お休みするから先輩に伝えといて!」


 2月13日の金曜日の放課後。

 とても慌てた様子で葵はそう言ってそれ以来学校から突然姿を消した。


 葵との出会いは高校に入ってから。

 同じクラスだと認識はあったけど、親しくなれたのは同じバレー部に入部してからだ。

 私は小学校からミニバレーをやっていて、中学の3年間もバレー部。

 中学時代は強いチームではなかったけど、キャプテンをやってた。

 背も高くがっちりとした体格で正にバレーに生きがいをかけているといっても過言じゃない。

 地区ベスト8に入るこの高校のバレー部に入れたのがすごく嬉しかった。

 もちろん、同じクラスから葵以外に2人のバレー部員もいた。

 だけど、葵の印象がすごかったといえる。

 私と同じようにがっちりとした体格をしていて中学でも3年間バレーをやっていたと聞く。

 体力もありそうだし、すごいプレーをしそうなオーラが漂っていた。

 さらに体操服の上からドカと突き出てる胸の大きさにも度肝を抜いた。

 基礎練習が始まり、まずは走り込みと柔軟。

 足が速いというわけではないが、足腰がしっかりしてて長距離を難なくこなしていた。

 さらに信じられないぐらい身体が柔らかでやはり只者ではないと感じた。

 3年間、こんな選手を見逃してたなんて思いもしなかった。

 早い話、少しライバル視してたのかもしれない。

 ところがボールを使った練習が始まると目を疑う光景が入る。

 サーブは見当違いのところに飛ぶし、トスは顔面で受けるわ、レシーブで尻餅をつく…。

 とても3年間、バレーをやってたように思えない…。


「引退して以来久しぶりなのにボールが当たってる!」


 …何て言いながらエヘヘと笑ってる。

 先輩も他の子たちもちょっと驚いた様子。

 どう見てもバレーやってたって言われたらそんな風に見える体形なのに。

 …もしかしてめちゃくちゃ下手?!

 詳しく聞けば3年間、万年補欠だったとか。

 見掛け倒しとはこのことかとガックリした。

 それから1ヶ月、さすがベスト8のバレー部、練習量が並みじゃなかった。

 辛くて厳しいと同級生の3分の1が辞めていった。

 でも葵はそうじゃなかった。

 どんなにハードで苦しくても一生懸命にがんばってた。

 みんなが弱音を吐きそう時、行動がちょっとずれてて苦しさを笑いに変えていた。

 葵は一生懸命やってるんだけど、不器用なせいでうまくいかない。

 高校からバレーを始めたという先輩もそんな葵に励まされてやる気を宿し、プレーがうまくいかなくて挫けそうな気持ちになった時も葵のようにひたむきになろうという気になる。

 不器用でちっとも上達しないのに人一倍がんばる葵の姿にみんなが惹かれていた。

 つまりバレー部にとって葵はいつの間にかやる気の源になっていた。

 当然、目に付く葵の不可解な行動はバレー部内では収まらなかったけどね。

 体育館のエリア半分はバスケ部と共有しているため早くも目をつけられてたと思う。

 只でさえ、魅力的な体形をしてるわけだし、男子の目を引くのは当たり前だ。

 ふとした時に葵の姿を見つめるバスケ部男子たちの姿を何度も目にしたことか。

 当の本人は全く気づいてないのが笑えるんだけどね。

 ともかく葵は体育館内での隠れたアイドルだ。

 バレー部にとっても欠かせないムードメーカー。

 そんな葵が突然いなくなるなんて…。



 週明けの月曜日。

 時間になっても空席のままの葵の席。

 今日は休みだろうか?

 そんな風に思っていたら突然担任が転校したと告げた。


「さ、咲ちゃん! 知ってた、葵のこと?」


 私は中学時代から友だちの咲ちゃんに聞く。

 小柄で面倒見の良い咲ちゃんも驚いたように首を振る。


「そんな話、聞いてないよ!」


「突然、転校だなんて…」


 私は信じられなかった。急な出来事を受け入れることができなかった。


「これってなんか変」


 咲ちゃんはあごに手を当てて首をかしげた。


「ちょっと待ってね」


 そういって咲ちゃんは携帯を取り出して操作する。

 しばらくしてため息を付きながらパタンと閉じる。


「電話が通じない。やっぱり変だよ」


 携帯を持たない葵は自宅の電話になる。

 そこにかけて通じないなんて…。


「金曜日はさあ、確かに行動がおかしかったけど転校だなんて一言も口にしてなかったよね?」


「う、うん…」


 そう言われながらも私はその前日、木曜日のことを思い出していた。

 部活中、頭をぶつけた直後、飛び出して行ったことを…。

 あれはちょっとパニクってたからって言ってたけど?

 もしかして打ち所が悪かったからその後遺症で突然記憶を無くしたんじゃないの?

 あの葵ならあり得る…。

 そしてそのまま家に帰れなくなったとか?

 これってもしかすると…。


「失踪?!」


 咲ちゃんと声が重なる。


「真琴ちゃん、私、今日葵の家に寄ってみるから」


 真剣な顔をした咲ちゃんに任せることにした。

 もし失踪だったとしたら葵、一体どこに放浪してるわけ?

 不安に捕らわれながらも葵のことだからひょこっと現れるような気がしてしまう。

 もう~、葵のヤツ~~!

 近所をぼんやり歩いてるの見かけたら只じゃおかないぞっ!!


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