表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報
26/85

重なる二つの口唇

「逃がさないから」


 願い空しく容赦なく近づく明人さんの顔、そして口唇。

 どんなに力を入れても振り払うことの出来ない明人さんの胸の中。

 もう、絶体絶命!!

 必死に顔を背けるのが精一杯だった。

 そして明人さんの唇があたしの右側の口角に触れた。


「明人!!」


 その直後、怒りに満ちた声が部屋に響き渡る。

 あたしに抱きついていた明人さんが急に離れ、その瞬間、ガツと鈍い音がした。

 見れば明人さんが頬を押さえて床に倒れこんでいた。

 その近くには肩で息をして立っているおにいちゃん!!


「明人、お前…!」


 今まで見たことの無いほど怖い顔をして倒れた明人さんの胸倉を掴む。

 そして大きく腕を振りかざし、今にももう一発、殴りそうな勢い。

 こんなおにいちゃん見たことない。

 止めなきゃいけない。ただそれだけだった。


「や、止めて!! おにいちゃん!!」


 あたしは思わず叫んでいた。

 ピクッとおにいちゃんの動きが止まり、明人さんが驚いたように口にする。


「…おにい、ちゃん?」


 明人さんは頬を押さえたまま、あたしとおにいちゃんを交互に見る。

 しまった! と口を覆ったが気づいた時には遅かった。

 その言葉はしっかりと明人さんの耳に焼き付いていた。

 取り返しのつかないことを口走ったことを後悔する。

 おにいちゃんはあたしに背を向けたまま、立っていた。

 どうしよう? きっと怒ってる。

 秘密にしてくれていた兄妹という関係を知られてしまった!

 それもおにいちゃんにとっても知られたくないだろう明人さんに。

 このことが原因でいろいろなことがばれたらおにいちゃんの立場が…。


「ち、違うの…」


 あたしは慌てて否定しようとしたけどうまく言葉が出てこなかった。

 どうにかしなきゃと考えていると、


「どうなさいましたか?!」


 緊迫した空気をかき消すように永井さんが部屋に飛び込んできた。

 そしてその場の様子を察したかのように明人さんに近づく。


「さ、明人様、こちらへ」


 呆然としたままの明人さんを引き連れて部屋から出て行く。

 気まずい雰囲気のまま、おにいちゃんと二人きり。


「おにいちゃん…」


 背を向けたおにいちゃんにちゃんと謝ろうと近づく。


「ごめんなさい、あたしったら思わず…」


 泣きそうな気持ちになりながらおにいちゃんの顔を見上げようとしたその時、


「葵…」


 腕をグイッと掴まれ、そのままぎゅっと抱きしめられる。

 明人さんの時とは違うふんわりとした優しい心地。

 おにいちゃんの胸の中。


「…おにいちゃん?」


 驚くあたしの顔をおにいちゃんの両手がそっと包み込む。

 何か言いたそうないつもの顔がそこにある。

 切なげで儚げで胸が苦しくなっちゃうよ。

 だけどおにいちゃんは黙ったまま、両親指であたしの唇を触れる。

 そして何かをぬぐうかのように指が動く。

 そうだ、あたし、明人さんに…!

 とんでもないことを口走ったせいですっかり頭から抜けていた。

 つい数分前には明人さんからキスされたんだった!

 でも顔を背けてたから直接的なものじゃない!!

 …だから、あれはキスじゃないよね?

 見つめるおにいちゃんの瞳が悲しそうに揺らぐ。

 明人さんのこと、気にかけてたのはこういうことだったんだね?

 あたしに何かをしでかすんじゃないかって。

 掴みどころの無い人だからおにいちゃんを困らせるためにも、って。

 そういうこと何だよね? 心配性になったのは?

 おにいちゃんの悲しげな瞳が胸に突き刺さる。

 これ以上、心配かけたくない。


「あ、あのね、あれはね、口の端に当たっただけだから…」


 気にしてないから平気だよって言おうと思った。

 だけど言い切る前に言葉が途切れる。


「ん…」


 だっておにいちゃんの口唇があたしの口唇をふさいでしまったから…。

 それは全てを覆うかのように、そっと。

 優しく包み込むような感覚で。

 時間が止まったかのように身動きが取れなかった。

 重なったままの数秒間。

 それからゆっくりと口唇が離れるとおにいちゃんは我に返ったように、


「葵、ごめん…」


 そう呟いて部屋を出て行った。


「うそ…」


 頭が真っ白になり、その場へとしゃがみ込む。

 全身の力が抜けてしまった。

 もしかして…、あたし、今、おにいちゃんにキスされた?

 そう思うと胸がドキドキし始める。

 口唇に触れると優しく包むような感触が蘇る。

 明人さんのように強引に迫られたものではなくて、そっと自然に近づいたもの。

 あたしにとっては、初めてのキス。

 …それも相手がおにいちゃん、との。

 どうしよう、あたし、ドキドキが止まんないよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ