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おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報
23/85

怒涛の新学期

 規則正しい生活で過ごした春休み。

 休みボケなんてなしでばっちり起床の新学期の今日。

 とうとうあたしも高校2年生!

 宿題も全てクリアし、すっきりした気持ちで始まる一日。

 さあ、とりあえず専属をがんばるぞ!!

 張り切って諸々をこなし、食事室のキッチンカウンターで準備している時だった。


「ねえ? 可愛いメイドさん、あんた誰?」


「へ?」


 何気に声のする方を見るとドア付近で顔を覗かせる姿があった。

 あっ! お、おにいちゃんの弟さんだっ!

 驚いた拍子にせっかくワゴンに並べたフォーク類をガシャーン!!

 ひぇえ~、マサさんに大目玉だよぉ~~!!

 慌てて床に散らばった銀色のカトラリーを拾い集める。

 最後の一本に手を伸ばした時、先にそれを掴む手がぬっ。


「ボクは明人。あんたの名前は?」


 ナイフの刃を突き出しながら覆った前髪の口元がニッと笑う。


「ほ、ほほ、堀川葵です!!」


 思わず目の前にある刃先の恐怖に囚われて答えてしまった。


「へえ、葵かぁ…」


 前髪の隙間から見える目がちょっと笑った気がした。

 あたしは怖くてその隙にナイフを奪おうと手を伸ばす。


「うわぁっ!」


 明人と名のったその人が掴みかかるあたしに反応してかわしたせいで、バランスを崩し再度拾ったフォーク類をばら撒く始末。


「…何やってんだか?」


 呆れたような声を無視して拾い集めるとすぐさま流し台へ移動。

 落としたものを洗って磨いとかないとマサさんに怒られちゃう!!

 焦って蛇口をひねり、勢いがよすぎたのか握ってたフォーク類に反射して水が周りに飛び散る。


「お、おい! 何やってんだよ!」


 見事なまでに水を撒き散らたため、その被害にあったらしいと髪が濡れていた。


「うわぁ、ご、ごめんなさい~~!!」


 とっさに近くにあった布でその人を拭く。


「…それ、台拭きだろ?」


「ええ?!」


「あんたって何だか…」


 言いかけた言葉を遮断するようにドアが開く。


「…葵様? あ、明人様!!」


 マサさんの驚く声が響き渡った。


「明人様! こんなところにいらしたのですか?! 別館に入られては困ります!」


 悲惨な状況に反応しながらも近づいてくるマサさん。


「さ、お戻りくださいませ」


 俊敏なマサさん、明人さんの腕を掴むと食事室の方へと引っ張り出す。


「何だよ、誰も葵のこと教えないから直接聞きに来たんだよ!」


 引き摺られながら喚く声、その騒ぎを聞きつけておにいちゃんが現れる。


「明人! 別館に立ち入るなと伝えただろ」


 怒ってるおにいちゃんの声、だけど気にした様子の無い明人さん。

 一瞬にして険悪な空気が立ち込める。


「さっ、こちらでございます」


 結局マサさんに連れ出され、食事室にはおにいちゃんとあたし。


「…大丈夫か?」


 おにいちゃんの不安げな視線にドキンとする。


「う、うん?」


 問われた意味がわからずに曖昧に返事。

 何か言いたそうな瞳で見つめられ、鼓動が高鳴る。

 気になって聞こうとした矢先、


「…葵、ごめん。先に出かけてくれ」


 おにいちゃんはため息交じりにそう呟くと部屋を出て行った。



 修美院学園付属高等学校の2年生。

 2ヶ月前に初めて着た制服はまだ真新しくって新入生気分。

 朝からいろいろあったけど、今日から新学期なんだからね。

 心機一転、気持ちを切り替えてがんばらなきゃ!

 そう、思ってたのに…。


「堀川さん、おはよう」


「春休みは如何でした?」


 見知った顔がひょいっと姿を現す、クルクル乙女1号、2号。

 総合学科だからクラス替えは行なわれず、SHRのメンバーは同じと知る。


「いえ別に…、特に変わったことは…」


 乾いた笑いで交わすあたし。

 せめて授業で重ならないようにと願うのみ。

 2年生になると専門科目が多くなり、文系、理系など固まってくる。

 まあ細かいことや難しいことが苦手なあたしは理系どころか文系分野さえも怪しい雲行き。

 ともかく今週は授業選択週間ってことでお試しに受けたいと思う授業にどれでも参加できる。

 目星をつけてた授業の教室へ移動。

 だけど考えることはみんな一緒だよね。

 逃げるように教室に飛び込んだのに後から見知った顔が現れるんだもの。

 せめて乙女コンビに気づかれないように目立たない席へ。

 そんな風にこっそり行動していたら、


「あっおい~」


 突然の呼びかけにどビックリ。

 その拍子に椅子をガッタンと大音響。

 教室中の注目を浴びる始末…。


「あっ、堀川さんじゃない!」


 当然、乙女コンビもあたしの存在に気づくはず。

 ひぃ~~! 誰なのよ、声の主はと振り返ると!


「あああ?」


 何とそこには今朝バタバタさせた張本人、明人さんがいた!!


「あんたもこの学校なんだ? へぇ~」


 制服を着くずした格好で机にもたれながらあたしのすぐ後ろの席に座っている。

 どうしてこんなところにいるわけ?


「きゃあ! 明人様~」


 突如、黄色い声が上がる。近づいてきた乙女コンビだ。


「ほ、堀川さん! 明人様ともお知り合いなわけ?」


「貴裕様といい、美佳子様といい、お顔が広いのね?」


 羨ましげな表情を浮かべつつも明人さんに釘付けの乙女1号と2号。

 その視線を無視して机の上に座り直しながら、


「だって葵はボクん家のメイドだもんなぁ?」


 あたしの首根っこに両腕を絡め、抱きつく明人さん。

 ひい~! なんてコトを言うんだこの人は!!

 固まる乙女コンビ。


「め、メイドですってぇ~~~!!!」


 悲鳴に近い声を上げ驚き、教室中に知れ渡る。

 明人さんは知らなかったの? というように抱きついたまま、きょとん。

 乙女コンビの顔色がみるみる変わり、騙してたのねと豹変!

 うわ~~ん!! 最悪だよ~!!

 新学期早々、秘密にしていたことがばれてしまった。

 先が思いやられる2年生の、始まり。


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