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おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報
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一人ぼっちの寂しい気持ち

 日曜日だけども生活習慣でいつものように目が覚めてしまった。

 そう、日時は関係なくおにいちゃん専属の仕事が待っているはず。

 だけど今日に限っては事前に普通に過ごすようにマサさんから伝言があった。

 この1ヶ月間、不器用ながらにも何とか身につけた専属仕事。

 完璧には程遠いんだけど、日々の習慣を身体が覚えてしまってる。

 そんな状況の中、突然の休業宣言ですることがない状態。

 着慣れたメイド服もクローゼットの中で部屋着姿のあたし。

 ブランチの時間まで気が抜けたようにすることもなく部屋で過ごす。

 …何だか、変な気分。

 ふと昨日の夢の国で買ってもらったぬいぐるみが目に入る。

 バカでかいキャラクターは帰ってきた時には部屋に運ばれていた。

 別にねだった訳じゃなかったのに巨大な物体を魅入っていたらいつの間にかおにいちゃんってば即購入!

 小さい頃もそうやってあたしの欲しそうなものをこっそりと買ってくれたよね?

 楽しかった夢の国。きっと忘れられない思い出となる。

 10年前に望んでいたたった一つの願い。

 息を切らせても大丈夫なように元気になること。

 それが叶った瞬間、嬉しさと楽しさが弾けて喜びを全身で感じた。

 その至福とともに胸の奥で締め付けるような何だか分からないドキドキも感じていた。

 おにいちゃんの寂しげな顔を見る度に。

 ふと何か言いたそうな雰囲気なのに何も語らない。

 それを聞こうとしてもいつの間にかはぐらかされてる。

 神秘に満ちたおにいちゃん。

 昨日だってそう、婚約者だっていう美佳子さんをろくに紹介さえしないで。

 そんな人がいるって分かってたらあたしだって…。

 頭の中でおにいちゃんと美佳子さんとのツーショットが過ぎる。

 ――あたしだって…、何なの?

 カァーと全身が熱くなるような感覚に一瞬陥る。

 …そ、そう、邪魔なんてしなかった。来るって知ってたら出かけたりなんか、ね。

 ホント、どうしちゃんだろう、あたし?

 手持ち無沙汰のせいもあり、何だか分からないモヤモヤ感をそのぬいぐるみにぶつけていた。

 そして巨大ぬいぐるみと格闘中、マサさんから食事のご案内。

 元気のよろしいことでと苦笑されながら食事室に着席。

 だけど、セッティングが明らかに一人前、つまりあたしだけってこと?

 気になってマサさんを見つめると察したように、


「貴裕様はご用事でお出かけになっており、葵様のみ召し上がっていただきます」


「…へえ、そうなんだ」


 何となく気になりながらもそれ以上は聞けなかった。

 ただ空虚感を埋めるように食事にがっつくだけ。

 結局その日はおにいちゃんと顔を合わせることなかった。



 翌日の月曜日。

 休み明けということもあり、今日こそはいつもの専属が始まると張り切って着替える。

 傍らに真新しかったぬいぐるみがよたってるのは見なかったことにして。

 部屋を出てタオルの用意をするためにシャワー室ヘ向かう。

 勝手知ったる棚から随分と慣れた作業と称してタオルを取り出し、かごに入れる。

 そんな風に準備をしていると、おにいちゃんの部屋へと通じる側のドアが開いた。

 ウソ? 今日はこんなに早いの?

 そう思っていると入ってきた人物は、美佳子さん、だった。


「…あら? 葵さん、じゃない? おはよう」


 ウエーブの長い髪が少し乱れたような感じでシルクのネグリジェ姿のまま、驚いたような顔で現れた。


「あっ、えっと…。おはようございます…」


 あたしは見てはいけないものを見たかのように慌ててその場を後にする。

 おにいちゃんの部屋から自然に出てきた美佳子さん。

 婚約者って耳にしてるから当たり前の事なんだろうけど、何だか嫌な気分。

 不思議と胸の奥がズキズキと痛み出す。

 そして何となくおにいちゃんたちと顔を合わせたくない気分になる。

 朝食の時間になっても嫌な気持ちが抜けなかった。

 けれど幸いに今日も食事はまたあたし一人らしい。

 マサさんから葵様のみお先にと勧められ、さっさと食事を済ませて登校した。

 席に着くと、クルクル乙女たちが取り囲む。


「堀川さん、今日は貴裕様とご一緒じゃなかったのね?」


 探るようにお伺いを立てる乙女。


「…ええ、それが何か?」


 答えることすら面倒になってついきつい口調。

 ぎょっとする彼女たちを無視して教室を移動。

 放っておいて、構わないで欲しい。

 何だか一人になりたい、そんな気分。

 お昼になり、恐る恐る噴水の前に行くと、そこにいたのは中川さん。


「貴裕様はご用がありご一緒できないとの事で」


 両手に抱えたお弁当の入ったバスケット。

 受け取ったあたしにそれでは…とその場を去ろうとする。


「待って!」


 急に寂しい気持ちが込み上げて中川さんを引き止める。


「よければ一緒に食べませんか?」


 さっきは一人になりたいと思ってたのに、今度は一人でいるのが怖い。

 あたし、ちょっとおかしいかも?


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