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おにいちゃん☆注意報  作者: おりのめぐむ
おにいちゃん☆注意報
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怒涛の1ヶ月後のご褒美

 3月14日。

 おにいちゃんの専属生活が始まって早1ヶ月。

 進歩の無いあたしの成長ぶりにマサさんは呆れがち。

 だけど、日に日に金切り声が減ってるっておにいちゃんは褒めてた。

 学校での生活も最悪で学年末では見事に赤点を戴き、追試で何とか乗り切ったという今日この頃。

 クルクル乙女たちは相変わらず押し迫ってくるし、おにいちゃんとどうにかお近づきなりたいみたい。

 あまりにもしつこい接触に無理だって開き直って伝えてるのに未だに諦めないみたい。

 まあ、中庭でおにいちゃんとランチしてる日々だしね。

 遠巻きに見ている姿を無視しながら食べてるあたしもひどいのかもしれないけど?

 めちゃくちゃながらに何とかおにいちゃんの専属もうまくいってるのかもしれない。

 そんな風に感じながらの1ヵ月間、だった。


「葵、一緒に出かけるぞ」


 いつもなら休業の会社に出かける土曜日。

 朝食後、おにいちゃんが突然言った。


「え? どこに?」


「いいから着替えてこい」


 何となく嬉しそうな様子のおにいちゃんを尻目にあたしはいつものクローゼット。

 どうやら食事中にマサさんが用意してるみたいでその手際の良さに感服。

 春を思わせるパステルイエローのチュニックのカットソー。中にはキャミソール。

 デニムのミニスカートとジャケットで普段から考えられない服装。

 ここに来てからパジャマか制服、でもってメイド服以外は着てなかった気がする。

 何となく女の子っぽいお出かけ着って感じで久々のせいか思わずにやけてしまった。


「嬉しそうだな、葵」


 いつの間にやら部屋に入ってきたおにいちゃん。

 またもや恥ずかしい姿を見られてしまった。

 そうそう! 実はおにいちゃんの部屋とあたしの部屋はドア越しに繋がっていた事実が発覚。

 室内のドアが開いておにいちゃんが入ってきた時にはホント、ビックリした。

 正確にはおにいちゃんの部屋とあたしの部屋との間はウォーキングクローゼットになってるんだけどね。

 そこにはおびただしいおにいちゃんのスーツがぎっしり。

 知らない間にあたしの部屋に入れるわけだよ、ホント。

 だから仕返しにこっそりおにいちゃんの部屋に入ってやる! ってたくらんだけど、見事に鍵が掛かってて行けなかったというオチ。


「よし行くぞ。葵」


 おにいちゃんは肩に手を回すとそっと先導してくれる。

 そして外に待たせてあったベンツに乗り込むとどこかへと走り出した。


「今日は会社はよかったの?」


 車が着いた先はキャラクターでお馴染みの夢の国。

 ゲートを抜けるとだだ広い空間がパーンとはじけてキャラクターがお出迎え。

 興奮して思わず突き飛ばしちゃったんだけど…。

 周りもおにいちゃんも大笑いで入場した途端からあたしってば…。

 そんなこんなでアトラクションを2個ほど回ったところで気づいたわけ。


「葵が行きたがってたから今日は特別」


 確かに少し前におにいちゃんが今一番欲しいものとかしたいことがあるか? って聞かれた覚えがある。 

 で思わずここに行きたい! って答えた。


「…1ヶ月間のご褒美って思えばいい」


 おにいちゃんはつんとおでこを突くと行くぞと手を引っ張る。

 そっか、ご褒美ね。

 そういえば家と学校と会社の往復だけだったし、こんな外出は初めてかもしれない。

 振り返ればお父ちゃんとの日々も家と学校の往復で遊びに出るのはすっごく久々かも。

 一応、休みの日は部活に勤しんでたからね、下手なりにでも。


「…って事は今日はおにいちゃんの専属を忘れて遊んでいいってこと?」


 おにいちゃんは苦笑しながらそうだなと頷いた。


「やったぁ!! じゃあ次はここ!!」


 引っ張られてた手を逆に握り返しておにいちゃんを次のアトラクションへと引っ張って行った。


「葵、少し休憩しよう」


 おにいちゃんは参ったとパラソル付きテーブルのイスへあたしを座らせた。

 飲み物を買ってくると売店に向かう後ろ姿。

 見つめながらあたしは幸せの時を感じた。

 おにいちゃんとこんな日が来るのを待ってたのかもしれない。

 2人で息を切らしながらあちらこちらと駆け回るのを。

 10年前に果たせなかった約束を、今、実現出来てる感じ。

 改めておにいちゃんは健康になって戻ってきたんだと実感する。


「どうぞ」


 嬉しくて思わずジュースを置いているおにいちゃんの首根っこに飛びついてしまう。


「あ、葵!」


 驚くおにいちゃんはジュースをひっくり返しそうになる。


「ご、ごめんなさい」


 咄嗟におにいちゃんから離れるときちんとイスに座り直す。


「どうしたんだ、葵?」


 驚いたままのおにいちゃん、ジッとあたしを見つめる。


「うん。10年前の約束が果たせてるのかなぁって思って嬉しくなっちゃった」


 正直にそう答えるとおにいちゃんは少し悲しげな微笑を向けた。


「そっか」


「おにいちゃんは楽しくないの?」


 何となく寂しげにも見えたおにいちゃんが気になって尋ねる。


「…いや、葵といると楽しいし嬉しいよ」


 優しく笑いかけながらそっと頭を撫ぜるおにいちゃん。

 何故だか少しだけドキンとした。


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