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1000字小説まとめ  作者: 八海宵一
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いつかなくなる夜

 月の光をルーペで集め、そのおじさんは、命の灯をともらせる。

 とても淡い、静かな光が何十年という時間を凝縮し、わずか数十秒の命を生みだす。

 真っ白い紙の上に乗せられた小さな天使の人形は、その静かな光を浴びて、少しの間だけ、にっこりと微笑んでくれる。

「少なくとも、満月の光が十年必要なんだ」

 おじさんは、少しはにかみながら、ぼくにつぶやく。

「それだけ時間をかけて初めて、命の器に、灯がともるんだ。ほんの少しの間だけどね…」

 真っ白い紙の上に、小さな青白い月が像を結び、海の輪郭をおぼろげに伝えている。

 ぼくは、小さくうなずき、抜け出してきた自分のうちを、ちらりと見た。

 まだ父さんの部屋に明かりがついている。

 夜更かしは、絶対にダメだ、と父さんはいつもいってた。

 こむずかしい、分厚い本を読みながら、なんでも知ってるような顔。でも、ホントのところは、なんにも知らない。

 勝手なルールを、勝手に作るのが、好きなだけ。

 夜中にうちを抜け出して、おじさんのところに出かけても、まったく気づかない。

 はじめて屋根伝いの訪問者を見つけたとき、おじさんは眉間にシワをよせたまま、右の眉を器用に持ち上げて、ぼくの夜更かしに、眼をつむってくれた。

「太陽の光では、人形が焦げてしまうからね…」

 いつものように、少し自慢げな語り。

 おじさんはよくしゃべる。仕事のこと、下の階で寝ている奥さんのこと、今朝みたおもしろい出来事や、今日の失敗。それに、みんなが忘れてしまった不思議な秘密について。

 だから、夜毎、黒ネコのように、ぼくは屋根を伝う。

 おじさんは、それに眼をつむる。

 勝手なルール。

 それは、知ってる。

 でも、迷惑はかけない。

 天使が、ぼくらを見あげたまま、動くのをやめていた。

 ルーペが静かに月の光を集めなおす。

 いつか来る、十数年後の今夜のために。

 いつまで続くかわからない、ぼくらの不思議な秘密のために…。


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