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1000字小説まとめ  作者: 八海宵一
20/25

雨傘警報

 いつもの19:42発の電車に乗りこんだ私は、7人がけのシートの端が空いていたので、そこに腰掛けた。手にしていた傘を手すりに引っ掛け、忘れないよう、念には念を入れ、小さく指差し確認をしてから、腕を組み、電車が動き出すのを待った。

 立て続けに2度、傘を置いてきたのは、まずかった。

 手すりの傘に目をやりながら、私は思った。

1度目は、父の日にプレゼントしてもらったブランドの傘だったので、嫁と娘からブーイングの嵐だった。せっかく二人で選んだ傘だったのに、と未だにチクリと言われることがある。反論したくても、自業自得なので、黙ってやりすごすしかない。2度目がなければ、傷は浅かったかもしれないが、翌日、予備の傘で、同じことをやらかしてしまったから、もうどうしようもなかった。

「ボケたんじゃないの?」

 とは、嫁の冷たい感想だ。失敬な、誰がボケたりするものか。ボケていたら、こうして仕事ができるわけないだろう。お得意さんの名前はもちろん、顔や趣味、特技だって、きちんと覚えているし、各営業所の電話番号だって、全部見ずにかけられる奴はなかなかいないんだ。今度のゴルフコンペの人選だって、私の意見で決まったようなものじゃないか。セッティングからなにから段取りごともうまくいっている。営業畑で25年やってきたのは伊達じゃないんだ……そういえば、総務部長も今年で勤続25年か。あそこも今年、孫が小学一年生になると言っていたな。ランドセル、どんな色にするのか決まったんだろうか。うちの孫はライトブルーがいいと言っていたが、やはり無難に黒のほうがいいんじゃないだろうか。それとも意表をついて黄色とか派手な色でいくんだろうか。目立つのは結構だが、いじめられたりしないか心配だな。そもそも24色もあるのが、けしからん、贅沢だし、迷う原因になる。クレパスじゃあるまいし。24色のクレパス。そういえば、神田川にそんなフレーズあったな。最近、あんまり聞かなくなったけど、久しぶりにCD出してかけてみるか。あれ、専務の十八番だったよな。懐かしいなぁ。ん、専務とカラオケ行ったの、いつだったっけ……あ、そうそう、山形に出張行ったときだった……。

 気がつくと、電車がすでに降りる駅に停まっていた。

 私はあわてて、閉まりかけた電車から飛び降りた。

 案の定、私の手には傘がなかった。

 私は意味もなく、動き出した電車の手すりに向かって、小さく指差し確認をした。

 確かに傘はきちんと、そこにあった。


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