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1000字小説まとめ  作者: 八海宵一
19/25

魔法使いレイリー・ロット

 レイリー・ロットは有名だった。

 酒場“愉快なゴブリン亭”の片隅でジンを舐めている彼は、まだかけだしの魔法使いで、冒険の経験はあまり多くはなかったが、知らない者はいなかった。

 その理由は、くしゃみだ。

 彼はくしゃみをするたびに、途轍もない魔法が使えた。くしゃみの勢いを利用すれば彼はなんでもできた。

 ダンジョンの最深部でモンスターに囲まれたときも、レベル100のミミックに襲われたときも一発、くしゅん、で片づいた。

 だが、いつもそんな都合よくくしゃみが出るとは限らない。一月前のクエストでは、くしゃみが出ないせいでグリズリーの昼飯になりかけた。

 以来、レイリーはコショウのビンを常に持ち歩いている(といっても今度、グリズリーにあったら、自分で塩コショウしてあげようというのではない)。

 だが、コショウは値段が高い。かけだしの魔法使いがほいほいと使えるような値段ではなかった。彼はコショウ以外の対策として、常にパンツ一枚の格好で過ごした。

「あんたが、レイリー・ロットだな」

 レイリーが顔をあげると、鎧に身を包んだ男が立っていた。一目見て戦士系だとわかる男だった。小さくうなずくと、男は話を続けた。

「仕事を頼みたい。イル氷原の奥にあるという伝説の剣を取りにいく。オレのパーティーに加わってくれ」

 男が提示した報酬額は、申し分のないものだった。レイリーはふたたび小さくうなずいた。交渉成立後、鎧の男はいった。

「その格好で行く気か?」

「そうだ」

「服を着たらどうだ」

「……」

「氷原は寒いぞ」

「……」

「風邪をひくぞ」

「……」

「なんとかいったら、どうなんだ?」

「……オレは風邪をひきたいんだ!」

 だが、かなしいかな、レイリーは風邪らしい風邪をひいたことがなかった。パンツ一枚でイル氷原にむかっても、彼は元気そのものだった。エリアボス“冬将軍”のところにたどり着いても、鼻水ひとつ垂れてこない。窮地だ。レイリーはやむなくコショウを使うことにした。だが、しかし――、

 ふたが凍りついていて、あかない!

 レイリーは青ざめた。


 一方、そのころ、“愉快なゴブリン亭”。

「あれ? マスター。アイツは? いつもコショウのビンを横に置いてる裸の変態魔法使い」

「レイリーかい? クエストに出かけたよ。今ごろ、イル氷原じゃないかな」

「あの格好でかい? よくやるよ」


 くしゅん!

 

 レイリーたちは無事、伝説の剣を手に入れることができた。


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