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1000字小説まとめ  作者: 八海宵一
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ピアスの青年

 コンビニの前で、店から出てきた一樹と目が会った。看板の明かりにピアスを光らせ、彼は気まずそうに視線をそらした。

 早紀は転校してきたばかりの一樹に、どう声をかけていいのかわからなかった。いつも机に突っ伏して、誰とも打ち解けようとしない彼は、教室で孤立することを選んでいたから。早紀は戸惑った。気づかないふりをしようかと思ったが、この距離では手遅れだった。

「今晩は、榊くん」

 一樹がぎくりと体をこわばらせた。もしかしたら彼もやりすごそうと思っていたのかもしれない。観念したように顔を上げた。

「えっと…」

「小川、同じクラスの」

「…どうしたの、こんな時間に?」

 いつもの制服姿と違い、一樹は黒のカットソーにデニムのパンツを穿いていた。ただそれだけなのに大人びて見えた。

「夏期講習の帰り。榊くんも塾の帰り?」

 一樹は頭をふり、普段は見せない穏やかな顔つきで応えた。

「ここでバイトしてるんだ…親父の稼ぎだと、食えないから」

「ごめん、変なこと聞いた」

「別に」

 一樹は短く呟き、歩き出した。後を追うつもりはなかったが、帰る方向が一緒なので少し間をあけてついて行く。お互いが意識する微妙な距離のままで。

 耐え切れずに沈黙を破ったのは、早紀だった。

「バイトのこと知ったら、ナベの奴、残念がるかも。榊くんを勧誘しようとしてたから」

「ナベ? 勧誘?」

 突然の言葉に、一樹が振りむく。

「うん、ナベっていうのは渡辺のこと。クラスで騒いでる奴いるでしょう? あいつ、陸上部の部長なの」

 一樹が、思い出したように頷いた。

「で、ナベが言うには、榊くんの脚は、絶対、陸上向きなんだって。だから陸上部に誘うって言ってたの。でも、バイトしてるんなら、無理だよね」

 早紀の言葉に、一樹はもう一度頷いた。

「でも、やってみたいな…短距離やってたし」

「本当に? 入部しなよ」

「けど、バイトあるし」

「相談したら? 聞いてあげるよ」

 一樹は首を横にふった。

「それぐらい聞ける」

 少しはにかみ、白い歯を初めてみせた。

 翌日、一樹が教室に行くと、誰が見ていたのか、早紀と一樹が、夜、二人きりで歩いていたことがスキャンダルになっていた。早紀が反論し、火に油を注いでいた。

 口笛を鳴らし、一際囃し立てている奴がいる――ナベだ。

 一樹は一瞥しただけで、何も言わなかった。

 ただ、まっすぐ自分の席につき、いつもどおり机に突っ伏したまま、一樹はなにも言わなかった。


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