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鈍色の心

送信者は、沙月という人だ。

どこかで聞いたような気がする。

とにかく見てみた。

「村上さん、5月の頃はごめんね?ちょっとムカついちゃってさ」

すぐに確信する。

こいつは杏奈の取り巻きだ。

そう思考している間に、二通目が飛んでくる。

「でさ、村上ちゃんの友達の寧々ちゃんいるじゃん?

 寧々ちゃんさー、なんか正義ぶってさー、

 あんたのことを守るとかほざいてさー、

 ちょっと杏奈ちゃんに手出しちゃってさ?」

「流石に友達とは言えさー、

 許せなくない?

 許せないよね?」

圧を感じる。

寧々のためにも、いやいや、あんた達がいじめてきたのが悪いとでも言ってやりたかったが、

打てなかった。

指が打つことを拒んだ。

そうだ。私の心のヒビは、癒えてなどいなかったんだ。

あくまで、寧々と一緒に居る、その時は耐えられていたんだ。

でも、それだけなんだ。

心の奥底で、私はまだこいつらを恐れている。

四通目。

「だからさー、ちょっと寧々ちゃんのこと懲らしめない?笑」

私の指はすぐに動いた。

やめろ。送信するな。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。

ああ…送信してしまった。

「そうなんだ…わかった、懲らしめよ」

ああ、まずいまずいまずいまずいまずいまずい。

まだ既読はついていない。

まだ取り消せる。

しかし、すぐに既読がつく。

「ありがとー!

 じゃあ村上ちゃんさ、今度一緒に帰ろ?

 そしたらあいつも来るでしょ、どうせ」

やめろやめろやめろやめろやめろやめろ。

どんなにそう喚いても、計画は止まらない。

どうしようもない。

絶望の日曜日のまま、日付が変わらなければよかったのに。

その願いに反して、すぐに月曜が訪れる。

四限目も、すぐにすぎる。

ああ、夏なんてクソ喰らえだ。

7月最初の週、心の中で私はそう叫んだ。

私は弱い人間だ。

帰る時になった。

ここが引き返す最後のチャンス。

「寧々、一緒に帰ろ?」

「おっけー!」

このまま2人で帰ろう。

しかし私は弱かった。

私の心のヒビが叫ぶ。

それは、精一杯の心からのSOS。

しかしその判断で、苦しむ人がいる。

ダメだ。ダメなんだ。

一歩、また一歩と沙月達に近づく。

そこに遅れて杏奈も加わる。

ダメだ。ダメなんだ。

もう下駄箱だ。

上履きから履き替え、すぐに杏奈の元へ向かう。

ダメだ。ダメなんだ。

ああ、もう踏切なのか。

「ねぇ寧々ちゃん?

 この前杏奈ちゃんに手ぇ出したこと、謝ってもらってないんだけど?」

沙月が言う。

「い、いや

 だって茉奈をいじめるのは違」「は?だからって手出していい訳ないよねぇ!?」

すべをて言い切る前に、取り巻きが被せて言う。

飛んだのは、1発の平手打ち。

寧々の右頬が、赤みを帯びる。

まずい。止めなければ。

私はすぐに止めようとした。

しかし杏奈手を掴まれる。困惑していると、

2発目が入れられる。

本気で手を振り払いに行くが、帰宅部が運動部に勝てるはずもない。

半ば強引に引っ張られ、杏奈に耳打ちされる。

「蹴れ」

それだけはダメだ。それだけはやめろ。

しかし私は弱かった。

沙月が平手打ちをやめる。すぐに寧々は逃げようとした。

しかし寧々は腰が抜けて、立てなくなってしまった。

逃げてと言いたかった。

しかし口が開かなかった。

私がここで何かすれば、寧々より酷い扱いを受ける。

すでにいじめられた経験のある私からすれば、それは何より恐ろしかった。

私は足で、踏みつけるように寧々を蹴った。

私はもう無理なんだ。

いじめられる前の、平凡な心になど戻れない。

私の心には大きな亀裂が生じ、私の心は鈍色をしていた。

どんな楽しいことや青春を尽くせども

この鈍色は決して塗り替えることの出来ない色だ。

寧々の顔から希望が消え失せた。

次の日から夏休みだ。

私に楽しむ権利などないか。

そんなことを思った。

目の前で、寧々がリンチされている。運動部のパワーで、1発。2発。3発と蹴りを入れられ、それを3人分。

最後に杏奈が出てきて、写真を撮る。

そして、帰っていく。

私は泣いた。

そして引っ張られ、奴らについて行かされる。

寧々にごめんと何度言ったか。

でも、もう何も言うことはなかった。

沙月が言う。

「あ、村上ちゃんクラスLINE入れとくね?」

そんなの知らない。

私は力無く頷く。心に亀裂はもうない。

完全に割れたからだ。

家に着く。力無く自室に転がり込む。

グルラが通知を鳴らす。

寧々の写真だ。

アルバムが作られている。

そのアルバムには、寧々の写真が大量に入っていた。

どの写真にも、痛々しい跡と、泣き腫らした顔が写っている。

1学期のフィナーレは、大失敗に終わった。

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