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救いを齎してくれたのに

寧々のおかげで、この暑ささえも良いものと思えた。

夏というものの良さを、青春という物を教えてくれたような、そんな気さえする。

海から吹く風は、熱気のせいかぬるく感じる。

しかしそれは嫌なんかじゃなかった。ああ、夏だな。

透き通るような、快晴の空を見て、また夏を感じる。

心の傷は癒えてなんかいない。

でも、その傷を覆って、隠してくれたから、今私はこうして前を向けている。

前に視界を向け、通学路を歩く。

地面は少し湿っていて、早朝の夕立を感じさせた。

あの頃意識していなかった踏切も、電車も、今は全てが輝いて見える。

学校に着くと、真っ先に教室に向かう。

教室について、すぐに寧々の元に行く。

「おはよ!」

「おはよ、今日暑いわ〜」

「ね、超暑い。」

他愛のない会話だ。

でも、何より心地よかった。

しかし、私は違和感を抱く。

元気がないような気がする。

いや、気のせいだ。とその意見を飲み込み、推し談義に花を咲かせる。

ああ、あっという間にホームルームだ。

そういえば、筆箱を出し忘れていた。

あとで鞄から出そう。

ホームルームが終わり、また談義をして、すぐに授業が始まる。

1時間目、2時間目、3時間目と、時間は早く流れていく。

授業に集中していないわけじゃないが、

3時間目からは推し談義のことばかり頭に流れ、にやけを抑えるので必死だ。

敵が真隣じゃなくてよかった、と思う。

4時間目はもっと早く流れ、昼食の時間だ。

寧々は言った。

「あれ?」

すぐに会話を返す。

「どしたの?」

「弁当がないんだよね」

ああ、このパターンか。

彼女は芯がある。気の強い子だ。

しかし抜けているところもあって、少し忘れっぽい。

だから、2週間に1度は弁当を家に忘れてきてしまう。

私はすぐにおかずのミートボールを取る。

「はい、あーん」

「あーん、えへへ、いつもありがとね」

「いいのいいの、次は気を付けてよ?」

私はあなたにどれだけの恩を貰ったことか。

弁当ごと差し出したい気持ちで山々だが、それだと断られてしまうだろう。

だから、その気持ちを抑え、おかずを差し出す。

結局半分ほど食べられているが、これで良いのだ。

今日はこのあと掃除をしてすぐに帰りだ。

今日は何の話をして帰ろう。

掃き掃除すら楽しげに、私は箒を運んでいく。

掃除も、ホームルームもすぐに終わり、2人で帰途に着く。

海を目の前に、2人で歩いていく。

ああ、何で幸せなのだろうか。

帰ったらLINEでまた話そう。

歩いていく途中で、踏切の前に着く。

踏切がカンカンと鳴き、遮断機が降りる。

後ろから女子の声が聞こえる。杏奈達だ。

最近、あいつらは避けたりする様子もない。

きっと、寧々と仲良くしていることで、私を虐げるのが面白くなくなったのだろう。

すぐに寧々の方を向き直し、話を再開する。

一瞬、寧々の顔が暗くなったように見えた。

しかし、夏の魔力はそれを「気のせい」で済ませた。

遮断機が気だるげに上がり、すぐに歩み出す。

踏切を抜け、次の角を右に曲がり、道なりに歩く。

途中で寧々とは別れる。

それが嫌でたまらなかった。

できれば一緒に居たかった。

しかし足取りが軽いせいか、すぐに分かれ道に辿り着く。

そこで別れの挨拶を交わし、互いの家へと歩み出す。

私は考えていた。

この感情は果たしてただの友情なのだろうか。

私は割と軽い女だ。

中学の頃、好きな人が何人いたことか。

しかし今は、男子になど興味がない。

健康的な体型で、

夏の陽射しを浴びてなお褐色に染まらぬ、色白な親友にしか興味がない。

ああ、もしかしたら私は

寧々に恋をしているのかもしれない。

家につき、スマホを開く。

1番上に固定してある寧々のLINEを確認する。

LINEが来ない。

まだ家に着いていないのだろうか。

なら仕方ないか、とスマホを置き、ソファに腰掛け、スマホが振動するのを待つ。

3分ほどした頃、スマホが震える。

寧々からだ。

すぐに返信し、推し談義を再開する。

しばらく話して、少し会話の熱がおさまった時。

寧々から一通のメッセージが来た。

「今週末イオンで遊ばない?」

2秒と待たず、返信する。

「いこいこ〜」

何をしよう。と言うことだけで、思考が埋め尽くされる。

脳死で時刻と、集まる場所を決める。もう夕飯か。

夕飯の旨を伝え、残量が悲鳴をあげたスマホに、高速充電のType-Cを刺してやり、すぐにダイニングへ向かう。

すぐに飯を食い、風呂に入り、LINEを再開する。

あ、まずい。そろそろ日を跨ぐ。

寧々に寝る旨を伝え、スマホを落とす。

私もすぐに落ちた。

木、金のことなど全て吹っ飛ばした。

土曜のことだけ考えていると、すぐに残り半週間は過ぎた。

寧々と駅で落ち合い、イオンへ向かう。

遠いな。

しかしこの向かう時間でさえ、至福の時に感じられた。

私服の寧々は、いつもに増して整った外見をしているように見える。

案外、あっという間にイオンに着くと、まず昼食を取った。

ドトールは美味しい。

ドリンクはいつも紅茶派だ。

私は甘党のはずだったが、砂糖なしでも十分に甘かった。

いろいろ回って、やがては私達はプリを取ることにした。

ゲーセンに着く。割と奥まった位置にある、きゅるきゅるの顔をした女性の写真が見える。

その前には、週末ということもあってか、女子が多く見受けられた。

クソが。せっかくいい気分だというのに、杏奈に遭遇した。

その取り巻きもいると来た。

許した訳じゃないが、特にいじめても来なくなったため、特に何か嫌な顔をするつもりはない。

私は寧々を見る。

顔が強張っていた。明らかに下を向いていた。

どしたの?と尋ねても

「なんでもないよ、てか早くプリ撮ろうよ!」

と流されるだろう。

話は後でしよう。

少しむかつく案内音声ガイドに従い、写真を撮ってデコる。

きゅるきゅるになった写真を見ると、キモいなという感情が湧いてくる。

しかし最高の思い出だ、という感情の波が、その雑念をさらう。

その波に乗って、楽しくイオンを回った。

疲れたので、館内の椅子に座る。

そして私は切り出した。

「…杏奈達となんかあんの?」

彼女は、思い口を開いて言った。

「…うん。なんか、いじめられてるっていうか…さ。」

「何で言ってくれなかったの!?」

「いや、大したことじゃないよ、大丈夫」

その声は、ひどくか細い声だった。

きっと、いつぞやの私もこうだったのだろう。

「大丈夫な訳ないじゃん。なんかあったら、すぐ話聞くから!」

そう励ます。

しかし寧々がいじめられていたという事実に対し、私は憤りを感じるとともに、妙な脱力感に襲われた。

時間も遅くなってきたので、電車に乗って帰る。

やや桃色がかった空は、私をなんとも言えない気分にさせた。

これが「エモい」なのかもしれない。

家に着く。

私はもう一度、寧々がいじめを植えていたいう事実に向き合う。

確かにやけに教科書を忘れる回数が多いな、弁当を忘れる回数が多いなと思った。

しかし彼女のことだ、最近忙しいし暑いし、疲れているのだろうと

気にも留めなかった。

鈍感な自分を憎んだ。

スマホが震える。

寧々からだろうか。

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