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違和感

春の陽気を通り越し、夏の熱気を前借りしたような月曜日。

マスクと、メガネをしてなお貫通してくる植物の生存戦略。

花粉は延滞しているらしい。

春の夏の合作といったような日だ。どうやら、大失敗に終わっているようだが。

海から吹き抜ける湿った風は、熱気のせいでぬるく、涼しくもない。

ああ、ようやく学校だ。教室にさえ入れば、幾分かマシになる。

昇降口を前にして、足取りは軽くなっていく。

下駄箱を抜け、階段を素通りして教室に向かう。

1年F組についた。

すぐさま戸を開け、涼しさを堪能する。

涼しい、むしろかいた汗のせいで、寒さすら覚える。

ふと、教室を見渡す。

あれ、今は果たして夏日だろうか。

外の照りつける殺人的日光に反して、クラス内は冷たかった。

いや、外から見れば、概ね温かいクラスと言えよう。

しかし私に対して、冷たい気がする。

私の斜め後ろの席には人気な女子がいる。確か、杏奈だった気がする。

杏奈を中心に、3、4人程度が机を囲み、恋バナか、愚痴か、はたまた推しの話に花を咲かせる。

それが普通だ。しかしどう見ても、私のいる方向にだけ人がいない。

前から男子が入ってきた。

先ほどの3、4人の取り巻きのうち、1人が怒ったように彼の方へ向かう。

しかしやはりおかしい。

斜め左後ろなのだから、右前にいる男子の元へ行くには、私の真横を通るのが最短ルートだろう。

しかし不自然に、それとは真反対の方向から、明らかに遠回りをして、男子の方へ向かっていき、

痴話喧嘩を始める。

やはり私を避けている。

ああ、もし中三の私なら、親友だった晴香に声をかけるはずだ。

しかし彼女と別の学校に進学することを選んでしまったばっかりに、その手は使えない。

魂が抜けたように、分析をしていると、いつの間にやらホームルールは終わり、1時間目が始まろうとしていた。

もちろん授業の内容など、右から左どころかそもそも耳に入らない。

また分析をし始める。気づけば4時間目になった。

移動教室がないことに、この上なく感謝をした後に、私は気づいた。

このクラスの女子カースト上位なのは、杏奈と、その取り巻きたちだ。

彼女たちが私を避けろとみんなに言ったなら、聞かなければどうなることか。

反発すればその人も標的になる。

つまり…私は孤立した。高校生活一年目にして、私、村上茉奈の高校生活は終わりを迎えたということだ。

いや、そんなはずはないと脳がフォローをするが、どう考えたって終わりとしか言いようがない。

とりあえずQ.E.D.と言うことにして、脳を切り替え、授業を聞こうとする。

いやいやいや、と言わんばかりに脳はまた話を戻す。

分析の代わりに、困惑が押し寄せてきた。

なぜ嫌われているのか。

そんな悪いことをしただろうか。

確かに社交的なんかじゃない。

社交的なんだとしたら、私は頼れる友達がいるはずなのだ。

もっとも、そうならいじめなんてされないのかもしれないが。

脳の交通網が、さながらお盆の東名のように悲鳴を上げ始めたとき、チャイムが鳴った。

4時間目が終わり、お弁当を食べる。

味はしただろうか。

していたとは思うのだが、脳は味蕾になぞ興味がない。

そうして、ぐるぐるとよくわからなくなった。

結局、授業も、ホームルームも、何も覚えていないまま、帰路に着く。

暑さは少しおさまったようだが、それにしてもまだ暑い。

家に着き、いつもの私ならクーラーの前に立って

涼しさを堪能するところだが、今の私にそんな余裕はない。

自室に篭り、考えてみた。

しかし何もわからない。

夕飯の召集をされ、後味の悪いまま部屋を出る。

脳よ、そろそろ味蕾の事も見てやってくれよ。

そう思っても、味など覚えていないし、感じていたかもわからない。

ああ、どうしてこうなったのか。

典型的によく見るタイプのやつだと、ここからどんどんエスカレートしていくはずだ。

大きくため息をつき、足早にシャワーを済ませると、すぐさま眠った。

眠れるような心境じゃなかったが、一日中思考をフル稼働させていたのもあってか、すぐに眠ることができた。

最悪の予測が、見事的中した。

確実にエスカレートしていく。

最初は避けるだけだった。

しかし次第に、わざとぶつかる、物を隠す、上履きに何か仕掛ける、

机に、使用者にしかわからないレベルで落書きをする。

タチの悪いいじめだ。  

最初はそれで、周りを軽蔑し、自分を守った。

しかし次第に、この防護は意味を為さなくなる。

辛い。苦しい。

教科書はなぜかなくなり、ないことがバレると、私が叱責される。

ソシャゲで爆死したとき、恥ずかしいことをしたとき。

死にたいと思ったことはある。

しかしそれは単なる怒りや現実逃避からくるもので、当然本心じゃなかった。

でも今は、それが本心になろうとしている。

両親の心配の声は、もう届かない。

ただ心にブスブスと刺さる行為の一つ一つに、心が悲鳴を上げる。

心配で治癒できる範囲など、とうに超えていた。

限界ギリギリで心を維持し続け、いつしか6月になった。

それぐらいの頃、転校生が来た。

鬼塚寧々という、とても可愛い、しかし芯のある子だった。

ホームルームが終わると、杏奈の取り巻きが耳打ちをする。

おそらく、何か吹き込んでいるのだろう。

ああいうタイプの子がさらに加わるのか、と思うと、私の心にさらなるヒビが入る。

こちらへくる。

ああ、もうなんでもいいよ。好きにしてほしい。

何も諦めた。

しかし彼女は優しく言った。

「よろしく、村上さん。…大丈夫?」

脳がフリーズする。

本当に真っ白になった。

…は?

今この子は、私に手を差し伸べてくれた。

私はその手を、感謝を込めて、掴んだ。

「大丈夫。よろしくね。」

大丈夫になんて聞こえない、か細い一声だったと思う。

彼女は笑って言った。

「大丈夫じゃないでしょ。てか、次移動教室だよ。早く行こ?」

笑ってくれたことが嬉しかった。

真剣に、重苦しく受け止められるより、ずっと、

ずっと嬉しかった。

すぐに仲良くなった。

休み時間になれば、すぐ寧々の元へ行き、雑談する。

推しが同じだったのも、仲良くなるのを加速させた。

7月を来週に控えた時だったか。

また、違和感が襲った。

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