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蝶々と悪魔

作者: 諏訪 惠
掲載日:2026/02/27

森に住む悪魔の元に、蝶々がひらひら飛んできた。蝶々のりん粉は悪魔の好物。けれど悪魔は動かない。

森の奥の小さなお話。

1.

 あるところに、一匹の悪魔がおりました。悪魔は真っ黒な体にコウモリの羽、大きな耳に長いかぎ鼻を持っていました。

 ある日の夕方、ひらひらと一羽の蝶々が飛んできて、悪魔の羽にとまっていいました。

「どうしましょう。こんなに風が強いんだもの、上手に飛ぶことができないわ。これでは寝どこに帰れない」

悪魔は心のなかでほくそ笑みました。というのも、蝶々の羽のりん粉は、とても強い魔術の薬だからです。

「こんなところにこんな岩があったかしら」

蝶々は首をかしげて、ゆっくりと羽をうごかしました。そこは森のはずれの、澄んだ湖の近くでした。木々が生い茂り、お日さまは今にも闇色のふとんにもぐりこんでしまいそうです。

「今日はここで眠りましょう。ああ、よかった」

そうして蝶々は羽をたたむと、静かに眠ってしまいました。

 悪魔は小さくいいました。

「やれ、今夜は星がやけに多い、魔術をするには向かないだろう。今夜はこのまま寝てしまおう」

そうして悪魔は、そのまま一夜を過ごしました。


2.

次の朝、蝶々は起きていいました。

「ああ、ぐっすり眠れたわ。さあ、花の蜜をもらいにいきましょう」

悪魔はあわてて蝶々を捕まえようとしましたが、朝日がまぶしくて動くことができません。蝶々はひらりと舞い上がると、悪魔の羽にキスをして花畑のほうへ飛んでいきました。悪魔は悔しがりましたが、どうしようもありませんでした。

 ところがその日の夕方になると、また悪魔のところへひらひらと蝶々がやってきたのです。

「どうしましょう、今にも雨がふりだしそう。お昼はあんなにいいお天気だったのに。でも、雨がふるまえにここに来られてよかったわ」

蝶々が悪魔の肩にとまると、悪魔の耳がちょうど屋根になりました。蝶々はうれしそうにいいました。

「これで安心して眠れるわ。ああ、よかった」

そうしてそっと羽をたたむと、すぐに眠ってしまいました。

 やがて夜になると、通りがかったトカゲがいいました。

「やあ、おいしそうな蝶々だね。羽を一枚くれないか」

悪魔は答えていいました。

「いやいや、これから魔術につかうんだ」

ヤモリががっかりして行ってしまうと、悪魔は小さくいいました。

「やれ、今夜は雨がふるらしい、魔術につかう火がおこせない。今夜はこのまま寝てしまおう」

そうして悪魔は再び寝てしまいました。


3.

 次の日になると、めざめた蝶々がよろこんでいいました。

「あんなに雨がふったのに、羽はすこしもぬれていない。本当に、なんてすてきな岩なのかしら」

そうして悪魔の肩にキスをすると、ひらひらと花畑の方へ飛んでいきました。悪魔は少しだけ目をあけていいました。

「今夜は寝どこに帰るだろう。わたしの耳よりもいいやねがあるとは思えないがね」

そうしてやはりお日さまがまぶしかったので、悪魔はすぐに目をとじました。

 その日はいいお天気で、お日さまはゆっくりと海に沈んでいきました。夜になると、悪魔は目を覚ましていいました。

「さて、久しぶりにサバトへ行って、魔王さまに蝶々のりん粉をいただこう」

するとそこに、蝶々がやってきたのです。月明かりをたよりに飛んできた蝶々は、ちょうど悪魔の目の前にきていいました。

「暗くて何も見えないわ。あの岩はどこ?」

「ここだ」

悪魔が小さくそういうと、蝶々はひらりと悪魔のかぎ鼻の先に止まったのです。

「花畑であそんでいたら、あっという間に夜になっていたんですもの。ああよかった、これで安心して眠れるわ」

そういって、蝶々はゆっくりと羽をとじました。


 蝶々が眠ってしまうと、悪魔は小さくつぶやきました。

「今夜はやけに月が大きい、オオカミ男がうるさいだろう。今日はこのまま寝てしまおう」

ところがそのとき、それを見ていたヘビがするすると悪魔の体をのぼってきて、ぺろりと蝶々をのみ込んでしまったのです!

 そうしてヘビはいいました。

「お前は悪魔失格だ、魔王さまにそう伝えよう」。

悪魔はヘビを追いかけようとしましたが、体がうごきませんでした。三日もうごかなかったので、すっかり体が固まってしまっていたのです。悪魔は嘆きました。

「ああ、このみにくいかぎ鼻にキスしてくれたら!」


 やがて悪魔は苔むして、森のはずれに転がる岩になりました。春になると、岩の周りには色とりどりの花が咲き、たくさんの蝶々が羽を休めていくのでした。


森に転がる岩には、蝶々の記憶が宿っている。

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