29.針千本
ダリオンの身体から凄まじい殺気が漲る。
『ツクヨミ』でも最後は魔王と刺し違えるまで戦い抜くのだからダリオンの執念は侮れない。
しかし、『ツクヨミ』と違うのは今の魔王がエネルギー満タン状態であるということだ。
『ツクヨミ』でただの人間であるダリオンが魔王と五分の戦いが出来たのはロザリモンドの推測が確かならば、ひとえに兵糧攻めが功を奏したからにすぎない。
今のダリオンと魔王が本気で戦えばダリオンは確実に負けるだろう。
だが、ここもまた『ツクヨミ』と異なるのはロザリモンドの存在だ。
ダリオンとロザリモンドが単体であれば、魔王が有利だが、ロザリモンドはダリオンを庇う。ふたりが手を組めば魔王は不利となる。
それがお互いを絶妙なバランスで牽制していた。
そして今ダリオンはロザリモンドを逃さないよう拘束しながら、花嫁は渡さないと叫んでいた。
ロザリモンドの方が魔力量が高いはずなのになんということだろう。その身体からは狂気じみた膨大な魔力と大量の針が湧き出ていた。
ダリオンの『針千本』はロザリモンドを逃がすまいと狙っている。このままでは殺される。
その拘束からなんとか逃れようともがくロザリモンドだがダリオンの魔力を纏った馬鹿力のせいでさすがの彼女も逃れることが出来なかった。
だが、ロザリモンドがこのまま抵抗を続ければ、さすがのダリオンといえども魔王とは戦えまい。
ダリオンには気の毒だが、ロザリモンドは己の断罪回避の為に必死で叫んだ。
「魔王、ここは私がくい止める。コリンヌを連れて早く逃げて。」
邪魔だった宰相や騎士団長は消えた。ダリオンが騒ごうが、証拠さえ消えればあとは皆を煙に巻く自信はある。
断罪回避の為に必要な国王や重臣たちの弱みはことごとく入手済みなのである。
『かたじけないロザリモンド、恩に着るぞ。この借りはいつか返す。』
ん?
本音を言えばコリンヌさえ押し付けたら魔王は不要だが。
まあいいか。言質は取った。これからも瘴気溜まりの処理や、魔物の管理などキリキリ働いてもらおう。
「よろしく頼むわね。あとコリンヌを幸せにしてあげてね。」
コリンヌはといえば、この状況にもかかわらず魔王をうっとりとした瞳で見つめている。
『ツクヨミ』のコリンヌは魔王を決して見ようとしなかった。ダリオンに操を立てていたのだろう。
しかし、彼らは番なのだ。出逢えばお互い惹かれ合うのが運命。
「承知。必ず幸せにすると誓おう。」
魔王は力強くうなずくと幸せそうに微笑むコリンヌをかっさらって飛び立って行ったのだった。




