24.猫
ふたりきりの馬車の中。
ダリオンはロザリモンドを膝の上に抱えて愛おしげに、彼女を愛でていた。
その目は優しく満ち足りていた。例の事件は思いの外、国を巣食っており、早めに見つけられたのは重畳だった。しかし、ロザリモンドとの時間が損なわれてしまったのが辛かったのだ。
その様はようやく取り戻した掌中の玉を愛でる龍に喩えられるようだった。
しかし、愛でられているとは知らぬロザリモンドは戦々恐々としていた。
この間は嘘泣きに必死だったから平気だったけれど。今日はふたりきりだし、久しぶりだし、恥ずかしい。
きっと顔は真っ赤なのだろう、頬に手を当てると熱い。
そんな彼女にくすりと笑ったダリオン。髪を撫でる手が優しい。
これでは、私が猫にでもなったようじゃない。駄犬、いえ、最近は忠犬ね。忠犬ダリオンのくせに。
「私、猫ではありませんわ。」
ツンと気位の高い猫のような抗議にダリオンがふっと笑った。
「ローザが猫なら、ずっと腕の中に閉じ込めておくのに。」
その切ない囁きにロザリモンドは混乱する。
へっ?監禁でしょうか?断罪を回避出来たと思ったら猫に変えて監禁ということなのでしょうか?
思わず目を上げたロザリモンドはダリオンと目があう。その黄金の瞳がなんだか色っぽく見えてロザリモンドの心拍がますます上がる。
これは、心臓麻痺で殺されてしまうわ。ばれた?私が針千本したのが、ばれた?
うつむいて逡巡するロザリモンドの顎をくいっと持ち上げたダリオンが強請るように囁く。
顔が近いわ。毛穴が気になるじゃない。まあ、私の肌に粗はないはずだけど。
「ローザ、今日はあれしてくれないの?」
ひぃ、バレてるわ。最近、魔法を使えるようになったって聞いたけど。きっと解析する気ね。
それに、今までだって密かに魔法の勉強はしていたと聞いたわ。
あのお兄様が涙ながらに教えてくれたんだけど、私も聞いた瞬間から涙が止まらなかったわ。
もしかしたら『針千本』の呪い、ばれてるんじゃないかしらって。
これ以上やってバレたら、王族を呪った罪で断罪されるじゃない。
せっかくアホーダ男爵をぶっ潰したのに。もう絶対に『針千本』はしないわ。
リスクは冒せないもの。ここはなんとか誤魔化すのよ。
「ダリオン次第ですわ。」
そう、ダリオンが断罪しないなら何度でもやってもいいが、するだろう。する気なんだろう?
だったら、やらないに決まっているじゃないか。
ロザリモンドは心の中では絶叫していたが、表面上はどうしようかなというように小首をかしげて微笑んだ。
そのあまりの愛らしさに胸を撃ち抜かれたダリオンは周囲がなんと言おうとも、もっと結婚式を早めようと決意するのだった。
これ以上離れて過ごすなんて考えられない。ますます、ダリオンのロザリモンド・コンプレックスはネジ曲がっていくのであった。




