21.薔薇の会
後ろから元帥と第16師団の面々がやってきた。
強力な魔法蔦でぐん縛られている面々を見てだいたい事の詳細を理解した彼らは、そっとその場を離れて事態の収拾をはかることにした。
駄目王子だったダリオンがせっかく今日は良い働きをしたのだ。
しかも、使えなかったはずの魔法まで器用に使えるようになるというおまけ付きで。
ロザリモンドのいる場所を特定出来ず焦っていた時に彼女の魔力を察知して見つけ出し、全員を現場へと送り届けたのもダリオンなのだ。
若干目測を誤って空から降り注ぐ羽目になったのは御愛嬌だが。
生来の膨大な魔力を全くコントロール出来なかったはずの彼に今日だけは花を持たせてやりたかった。
それに普段は第16師団に恐れられている鉄の魔女ロザリモンドが今、ダリオンの腕の中で普通の少女のようにはにかんでいる姿は微笑ましくもあった。
幸せそうな彼らはそのままにしておいてやろう。
彼らも少しは空気を読めるのだ。
「テメエら、さっさと収拾して家にかえるぞ。」
強面の団長が団員に声をかけた。
彼らはきびきびと転がっている連中を連行していく。
ようやく片付け終わった頃、ロザリモンドが必死に取り繕っている声が聞こえてきた。
「ダリオン、怖かったわ。ユリアがバリアを張って助けてくれなかったら、私今頃。」
あの鉄面皮ロザリモンドが嘘泣きしてる。涙はでていないけれど。恐ろしいものを見てしまった団長は震えながら後ろを振り返る。
後ろには同様に震える団員たちが、顔を見合わせていた。いかん、ロザリモンドと離れなければ団員たちのメンタルがヤバい。
「ユリア嬢、ローザを護ってくれてありがとう、恩に着る。」
ロザリモンドの嘘泣きに気付かないダリオンがロザリモンドをひしっと抱きしめている。
元帥と団長は思った。ダリオン殿下はロザリモンドに完全に誑かされてると。
しかし、その誤解を解いてあげるほどふたりは親切ではなかった。大事なのは自分たちだ。
「令嬢達は怖かったでしょうから、ダリオン殿下におまかせします。送り届けてあげてください。現場はわれらが処理します。」
ロザリモンドの目が良くやったと言っている気がする。彼女が満足すれば第16師団は安泰なのである。
「すまない。頼む。」
ダリオンはロザリモンドを大切そうに抱き抱えたまま、馬車に乗り込んだ。
ユリアに先導された令嬢たちがあとに続く。
「ロザリモンド、彼女たちを送り届けてから最後に君を送り届けるけどいいかな?」
愛おしげにロザリモンドの髪を優しく撫でる。
彼のロザリモンドコンプレックスのベクトルがどんどんおかしな方向に向いてきているが、もはや誰も気にしていない。
「ええ、勿論よ。でもダリオン。私たちはダリオンたちのお陰で無事だったわ。だけど、醜聞が広まると……。」
よよよと嘘泣きをするロザリモンド。ユリアはこんなので騙される人間などいないだろうと半目で見る。
しかし。
「醜聞など、流させない。」
バレバレの嘘泣きロザリモンドをひしっと抱きしめるダリオンにユリアのほのかな恋心は打ち砕かれた。
これがあの長い間憧れていたダリオン殿下の本当の姿なのね、こんなバレバレの嘘泣きに騙されるなんて。
理想がガラガラと音を立てて崩れる瞬間だった。
それに、あんなにお茶会をしたのに、今日初めて名前を呼ばれたわ。いえ、初めて人として認識されたような気がする。
男はもう懲り懲り、これならば私たちを助けてくれたロザリモンドのほうがよっぽど格好良かったわ。
「……ですから、私たちは王宮のバラ園でお茶会をしていたことにしようとおもいますの。よろしくて。」
ロザリモンドの迫力ある視線にきっちりと口裏合わせを強要された令嬢たちはただただコクリと頷くのみであった。
その後、醜聞は誰の口からも広がることはなかった。
翌日から皆の話題の中心となったのは、ダリオン殿下と元帥、第16師団が協力して国を救ったという事だった。
国の根幹を揺るがすワープ装置爆破事件を未然に防ぎ悪党どもを捕らえた功に人々は沸き立った。
悪党どもの中には普段偉そうに威張っている騎士団員が数多く含まれていたからなおさらである。
そして、その日ダリオン殿下がエスコートに戻るまで彼の大切な婚約者とお茶会をした幸運な女性達はロザリモンドを頂点とする『薔薇の会』を発足させるのだった。
彼女らは鋼のメンタルと鉄壁の結束力で社交界の一大勢力となるのであった。




