19.潜伏
ダリオンが勘違いによりロザリモンドを心配して第16師団に援護を求めているなどつゆ知らず、ロザリモンドは器用に馬車の上に張り付いて中の様子を探っていた。
中に囚われている令嬢はユリアだけではないらしい。
アホーダ男爵め、どこまでも卑劣な奴だ。
しかし、馬車は城門を出る際に中を改められるはずだ。
それは、先ほどの王族であるダリオンの馬車でさえそうだったのだから、当然のことだった。
どう切り抜けるのかしら?
すると、城門のところで信じがたい光景を目にした。
アホーダ男爵が城門を守る騎士団と談笑していた。手には酒を持っている。
「うちの馬車が来ましたな。」
そう言うとアホーダ男爵が馬車に乗り込んだ。警備にあたっている騎士団の誰もその中を改めることなく馬車は城門を通過したのだった。
その瞬間、人身売買のからくりが解けた。
そう、出入り検査が行われる王宮の夜会で誘拐など起きるはずもないのである。
それが何故起こったのか? それはアホーダ男爵には共犯者がいたからである。
バトラー騎士団長が何らかの形で関与しているのではないか。
だからこそ事件は公にならないし、未解決のままであった可能性がある。
あとは『ツクヨミ』の見せた映像のように最後は騎士団長の子息レオナルド・バトラーがアホーダ男爵を殺せば口封じ完了。
なんて単純なシナリオなのかしら。
ただ、はたしてバトラー騎士団長とアホーダ男爵だけでここまで大掛かりな人身売買が可能だということはあり得ない。
なぜなら、令嬢たちを海外のオークションにかけるには国境を超えねばならない。
いかに騎士団とはいえ税関の権限までは持っていないはずだからである。
税関を握っているのは、ガランジ宰相か。
『ツクヨミ』の映像ではダリオンがアホーダ男爵の人身売買の証拠を押収しようとするシーンがあった。
けれど、火事でアホーダ男爵の家が燃えてしまいコリンヌを助ける為に宰相子息ウイリアム・ガランジが命がけで助けに行っていたけれど。
限りなく怪しいわね。
ウイリアム・ガランジはクロと見ても良いわね。
あれも証拠隠滅の為に彼が火を付けたのだとすれば合点がいく。
子息二人で事をなせるような規模ではない。騎士団長や宰相が絡んでいると見ていたほうがよいわね。
先ほどまで駄犬の群れに見えていた彼らはとんでもないモンスターだということね。
駄犬に見せておいて、油断したら喉元を食い千切られてしまうじゃない。おそろしいわね。
その間も馬車は順調に進んでいく。まるで何事もなかったように。
ロザリモンドはこっそり中の様子を探った。
そこには、ユリアだけでなく数人の令嬢がぐっすりと眠っていた。
いつの間に睡眠薬を入れられたのかしら?
そういえば、アホーダ男爵と踊っていたユリアは一瞬顔をしかめた時があったわ。
アホーダ男爵が醜すぎて不快だからだろうと、その時は気に留めなかったけれど、ユリアがお手洗いに立つこと自体も珍しい。
だって気位の高い彼女ならば我慢するに違いない。
ロザリモンドも普段であればお手洗いに立つなどしないものだ。それなのに。
ダリオンに勘違いされたことの羞恥が蘇ってきた。
ぐぬうー。アホーダ男爵め、この恨み決して許さんぞ。




