12.馬車という密室
馬車が王宮に着く。ロザリモンドは張り詰めていた息をついた。ようやく夜会会場についたわ。
こんなに王宮まで遠いと感じたのは初めてだっ。
馬車という密室の中、ロザリモンドはダリオンと2人きりという状況に危機感を覚えていた。
発端は3回目の『針千本』の呪い。その後、馬車の中の雰囲気がおかしくなったのだ。
今までならば、呪いをかけたあとのダリオンは固まったままなのである。
彫像のような彼の整った顔をゆっくり堪能しながら、のんびり王宮に向かおうと考えていた。
そして到着しても固まったままならば馬車の中に置いておいて、ひとりで気ままにコリンヌの調査でもしようと楽しみにしていたのだ。
その目算が狂ったのは、場所が動いている馬車という密室だったことだ。
いつものように固まったダリオンを置いて帰るという選択が出来なかったのだ。
そして、完全に固まらなかったダリオンに向かい合わせで小指を絡めあったまま、熱を帯びて潤んだ瞳でじっと見つめられたのだ。
動いたか危険な気がする。それはロザリモンドの本能が告げる警告だったのか。
先程までの尻尾をちぎれんばかりに振る駄犬ぶりから打って変わった危険な雰囲気。ワンコの後ろから狼の尻尾が見えたような気を抜けば喉元を食いちぎられるような恐ろしさに身動きが取れなかったのだ。
それに、無駄に顔だけは良いダリオンにそんな瞳で見つめられたら、ロザリモンドは自分の心に逆らえなかった。
自分の事嫌いなくせにあんな目で見つめるなんて誤解してしまうようなことは止めて欲しい。
どうして、ダリオンはドレスをプレゼントしたり迎えに来たりしだしたのだろう?
ロザリモンドは最近の彼の『ツクヨミ』の映像と全く違う姿に疑問を持った。
そう言えば、ダリオンは最近真面目に仕事をしていると聞いているし、資料もしっかり読み勉強を始めたと聞いている。
もしかしたら、『針千本』の呪文の正体に気付いて報復を仕掛けてきたのかもしれない。
ロザリモンドはダリオン変貌の真相をそう予想した。だとしたら、呪術返しを仕掛けられている可能性もあるわね。私のところに針三千本が来ているとか……。
呪い返しをサーチする。大丈夫だ。
そもそもこの『針千本』の呪文は原型はあるものの、魔力魔術構成力もトップクラスのロザリモンドがカスタムしたもの。完全にオリジナルのものだ。
解析など魔王クラスでなければ出来ないレベルのものだ。
それにロザリモンドが断罪されない限り発動しない。発動しなければバレないし、呪い返しも出来ない。
断罪を言い渡し切る前に原因不明の即死が待っている。断罪なんてできない筈。
バレていなかったことに気を良くしたロザリモンドは清々しい気持ちで馬車を降りた。
ダリオンのことだ。とりあえずおざなりにエスコートしたら、別行動するに違いない。
ロザリモンドは彼の軽薄な取り巻きが苦手だった。彼らも同じだろう。
人質に取られていた小指を取り返したロザリモンドはダリオンの手を借りて馬車を降りる。
ん?腰がガッツリ掴まれている。エスコートとは思えないくらいに近い距離にロザリモンドはおののく。
離して、これは未婚の男女としてどうなのかしら。
見上げたダリオンの顔になにやら甘さが加わって、色っぽい。
ひいー。これ以上乙女心を弄ばないで。ダリオン、これは立派な詐欺よ。ロマンス詐欺?結婚詐欺?騙されているとわかっていても沼にハマる女性たちの心がわかり、ロザリモンドの乙女心は悲鳴をあげた。




