悪役令嬢
公爵令嬢ロザリモンド・バルタインはどうやら悪役令嬢らしい。それも、骨の髄までずっぽりと。
透明感のある白くきめ細かい肌、淡くまばゆいばかりに光を放つハニーブロンドの髪は手入れの行き届いた縦ロールのツヤツヤ髪。
長くくるりんとカールしたまつげにぱっちり二重の澄んたサファイアのようなおめめ。
匠が手がけた一点もののビスクドールのような完璧な容姿。
加えて筆頭公爵家の娘という権力。由緒ある高貴な血筋。魔力計が振り切れる程の莫大な魔力量。明晰すぎる頭脳。
持って生まれた強烈なカリスマとその資質のみでも十分である。しかし彼女はそれだけでは済まさなかった。
持ち合わせた己の才能を努力によって極限まで伸ばし尽くし魔法学を極め、魔力を増幅した。
それだけならばまだ良かったのだろう。
しかし、彼女はその優れた頭脳、情報操作そして、かけひきによって目的のためならば手段を選ばないやり口までも手に入れてしまったのだ。
もう一度言おう、公爵令嬢ロザリモンド・バルタインは完璧な全方向無敵の悪役令嬢となったのである。
16歳の誕生日
ロザリモンドはご機嫌だった。なぜなら、子供の頃から淡い恋心をいだいていた、ダリオン殿下との婚約がようやく決まったからだ。
生後すぐにダリオン殿下の婚約者の地位はロザリモンドにほぼ決まっていた。それが覆されたのは、同じ年頃の子どもたちを集めたお茶会のあと。
ロザリモンドがダリオン殿下に淡い恋心を抱いた後のことだった。
普通の令嬢であれば、泣く泣く諦めただろう。しかし、ロザリモンドは決して諦めなかった。
血の滲むような努力で他の追随を許さぬ完璧令嬢へと進化したのだ。そうして、多少汚いやり口で先日見事にダリオン殿下の婚約者の地位をもぎ取ったのだ。
「おはようございます、お父様。」
朝の光を柔らかく反射してロザリモンドが居間に降りてきた。愛らしいその姿にバルタイン公爵は目を細めた。
娘は可愛い。中身がどれだけモンスターであろうとも。
いや、贅沢をするわけでもなければ、ワガママをいうわけでもない。ただただ、ダリオン殿下が絡むと暴走するだけなのだ。
ダリオン殿下に拒まれ続けて流れに流れた婚約を強引に結んだ娘の手腕もさることながら、何度も拒み続けたダリオン殿下の意思も固い。
娘の手腕をもってしてもこの婚約は前途多難になるだろう。政略的に結婚自体には成功したとしても人の心までは……。
せめて、我が家の16歳の誕生日の儀式で未来のヒントを得られればと願うしかなかい。
そして残念な未来であるならば、素直に諦めて欲しい。ロザリモンドならば、いくらでも良い縁談は望めるだろう。
そう、バルタイン公爵家には代々一枚の鏡『ツクヨミ』が伝わっている。
それは、このジグゼン王国が出来る前に滅亡したいにしえの大国イシスから伝わるもの。そして我が一族がそのイシス王家の末裔である証でもある由緒ある家宝だ。
そして、バルタイン公爵家嫡流以外はだれも知らない秘密。それが、『ツクヨミ』が一生に一度だけ亡くなる時の光景を見せてくれるということ。
本来ならそれは己の魔力を振り絞っても、一瞬だけ、さっと亡くなる瞬間の映像が浮かぶ程度のものだという。
「ロザリモンド、覚悟はいいかい?」
バルタイン公爵が緊張した面持ちで問う。未来の映像を一瞬でも見逃してはならないからだ。
ロザリモンドは秘かに開発した脳内映像記録魔法陣をポケットの中で握りしめた。
「ええ。」
艶やかに微笑む娘にバルタイン公爵は眦を下げると箱から『ツクヨミ』を取り出した。
16の儀式が始まる。ロザリモンドは『ツクヨミ』に手を置き、呪文を唱えた。
「ツクヨミよ、我が名はイシスのロザリモンド。いにしえの主の系譜に連なるものとして命ず。我に最期の時をみせよ。」
『ツクヨミ』が眩しい光を放つ
ロザリモンドはまばゆい光の中『ツクヨミ』の創り出した世界へと導かれて行った。




