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ディア・インウィのバー

「いらっしゃ〜い、あ、イハイちゃん!」


 バーカウンターの奥に立ってるのは、ディア・インウィ。このバーのオーナー兼バーテンダー。

 ディアは私を見るなり手を叩いて喜んでる。


 時間帯的にお店は閉まってるから、お客さんは誰一人いない。けど、ディアはいつもどこか寂しくバーカウンターの奥で立っている。

 

「やっほーディア、元気してた?」

「つい最近まで病んでたけど、今は元気よ。イハイちゃんはどう? って、配信見る限り元気そうね」

「私はずっと元気だよ。あ、スクリュードライバーね」

「はーい」


 私はカウンターの席に座った。

 バーカウンターの奥でディアがカクテルを作ってる。


 私はカクテルが何かよくわかってない。お酒ってことだけしか知らない。

 でも、ディアがカクテルを作る時の動きを見るのが好き。


 ディアの髪の毛は紺色で、肩の辺りまで切り揃えられてる。

 泣いた後のように目の下が赤くなっている。泣いたかどうかはわかんない。もしかしたらメイクかも。

 ディアはよく病むから、その度に泣いて目の下を赤くしてる。私と初めて会った時も泣いてたし。


 ディアの腕はとても細い。そんな腕で銀色の容器……あ、シェーカーだ。それをカシャカシャと振ってる。

 手慣れてるなぁ。

 つい見入っちゃうんだよね。


「はい、どうぞ」

「ありがと」


 透明なグラスに入ったオレンジ色の液体。これがカクテルだ。

 一口飲んでみると、口の中に広がる柑橘系の甘酸っぱい味……ん? まって、これ全然アルコール感ないよ。


 ディアは私の顔を見てニヤニヤしてる。


「カクテルじゃないじゃん! これただのオレンジジュースだよ!」

「そうだよー、イハイちゃんはまだ未成年だからね」

「それはこの世界の法律でしょ。私はもう立派な大人だよ」


 年齢は忘れた。というか覚えてない。

 生まれた時から変な施設にいたし、そこではずっと実験ばかりで、自分が何歳なんて考えたことすらない。


 だからたぶん大人だよ。でもディアは私のことを子供扱いする。

 そりゃあ背は低いし、子供っぽい見た目かもしれないけどさ。別に未成年なんてこの世界のルールなんだし、私関係ないじゃん。


 でも、美味しいからいっか。


「配信見たわよ」

「あぁ、さっきのね。あいつら何者だったんだろうね。コメントでは人身売買かもって書いてあったけど」

「あれは人身売買じゃないわ。あんな大人数で無理やり攫うなんてことしない。弱味に漬け込むのよ。だからあれはただの暴漢ね」

「へー、じゃあ悪い奴らってこと?」

「そうね。女の敵よ」

「私より悪いなんて許せない」

「あら、イハイちゃんは悪者になりたいの?」

「ただの悪者じゃないよ。かっこよくて、かわいくて、面白くて、楽しそうな悪者よ」


 私がそう言うと、ディアは口元に手を添えて静かに笑う。


「いいわね、それ。ぜひなってもらいたいわ」


 言いながらディアは私が飲み干した空のグラスをそっと回収して、隣に立つ大きなクマさんに手渡す。


 クマさんと言っても本物じゃないよ?

 ただの大きなぬいぐるみね。


 ディアは開花者(かいかしゃ)なの。

 魔法の力に触れて、それに適応した人のことね。

 開花者は魔法とはまた別で、能力って言われてる。


 ディアの能力はぬいぐるみを操るもので、能力名は、もふもふパーティー、だって。


 だから、今彼女の隣に立つクマさんも能力で操作されてて、空のグラスを洗ってる。


 ここはディア一人とぬいぐるみたちが切り盛りしてる。変わったバーなの。


「今日泊まっていい?」

「そんなこと聞かなくていいわよ。ここはあなたの家なんだから。好きにしていいのよ」

「やったね!」

「ご飯は食べた?」

「まだだよ」

「じゃあ何か作るわね」


 ディアはカウンター奥のキッチンに消えて行った。


 急に暇になっちゃったなぁ。

 私の手に小さな女の子のぬいぐるみが寄ってきた。

 目はボタンで出来ていて、髪の毛は太い糸が頭に縫われてる。スカートなんか着て、おしゃれさんだ。


「ディアが戻ってくるまで遊び相手になってよ」


 私は女の子のぬいぐるみをつっついて遊んだ。

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