不死者にとっての最悪な一日
薄暗い宿の一室には、カビとこぼれたエールの微かな臭いが漂っていた。その静寂な朝を、規則正しく、絶え間なく続く音が切り裂いていく。
ドスン。
「六千七百四十二……」
ドスン。
「六千七百四十三……」
ストームクローは腕立て伏せをしていた。手入れの行き届いた清潔な肉体は、灰色のショートパンツ一枚のみを纏っている。魔導ランプの淡い光の下、背中と腕の筋肉繊維の一つ一つが、薄っすらと浮かぶ汗で煌めいていた。彼はまさに規律の体現者であり、完璧に調整された生体機械そのものであった。
そのすぐ側で、ボロボロのベルベットのソファにだらしなく寝そべっているリリー・カゲヤマが、鋭い犬歯を覗かせながら大あくびをした。彼女は小さな砥石で、気だるげに愛刀の切っ先を研いでいる。
「ねえ、猫さん」
退屈でしわがれた声で彼女は言った。
「何やってるの? あんた、あの(存在しない)太陽が昇るはずの時間からずっと、そんな馬鹿げた数字を数えてるじゃない。うるさいんだけど」
「準備運動だ」
ストームクローは答えた。体を上下させ続けながらも、その重低音で断固とした声は微塵も揺らがない。
「何が準備運動よ」とカゲヤマは愚痴をこぼした。「まるで壊れた機械ね」
彼女は砥石を置いた。
「それより、マスターはどこ行ったの? アタシもう、吸血鬼の貴族を探し出してバラバラにする準備万端なんだけど。退屈で死にそう」
「マスターは『エボニー・ガード』の本部で用事があると言っていた」
ストームクローは完璧なリズムを崩さずに言った。
「我々はここで待機だ。それと、何も壊すなと仰っていたぞ」
「ふん」
カゲヤマは満足げなクリック音と共に刀を鞘に納めた。
「つまんないの」
一方、セント・ヴェレンの門の賑やかな通りでは――。
イモータルは、高くそびえ立つ陰鬱なセント・ヴェレンのエボニー・ガード本部からようやく足を踏み出したところだった。雨に濡れた大理石の階段で足を止め、黄金のファラオの仮面のフードを直す。
「はぁ……面倒くさい」
午前中の全てが、不機嫌なガーゴイル隊長による説教で潰れてしまった。「公共下水道の無許可使用」、「市有財産の損壊」、そして「高エネルギー『資産』同士の違法戦闘」。極めつけは罰金だ。明らかに水増しされた高額な罰金のせいで、手に入れたばかりの財産は一瞬にして目減りしてしまった。
『官僚主義の腐敗め』
イモータルの思考の声は二重の響き――彼自身の平坦なトーンと、古代のネフリスの旋律が重なり合い――仮面の静寂の中だけで反響した。
『モンスターだらけの世界でも、こればかりは避けられないか』
彼は濡れた石畳の道を歩き、奇妙な異形たちの群衆を通り抜けた。気分転換に何かが必要だった。ふと、通りの向こうにある小さな屋台が目に入った。四本の腕を持つタコ型の亜人が、炭火の上で香ばしい匂いのする何かを器用に焼いている。イカ焼きだ。
彼は激辛の黒いソースがたっぷりとかかった巨大な串焼きを一本買い、歩きながら食べ始めた。黄金の仮面を少しだけ持ち上げ、口に運ぶ。身は弾力があって美味だった。
宿に戻るため、暗くて悪臭の漂う狭い路地へ近道をしようとした時――聞き覚えのあるしわがれた声が、彼の足を止めた。
「おやおや、イモータルさん! またお会いしましたね。なんという奇遇でしょう!」
イモータルは凍りついた。手に持っていたイカ焼きのことなど頭から消え去った。彼は深く、苦悩に満ちたため息をついた。
振り返ると、路地の入り口の影に、その男は立っていた。真っ白な白衣と、あまりにも大きく裂けた笑み。その場にそぐわない異質な存在感。ドクター・レブンだ。
「ああ」とイモータルは平坦に言った。「お前か。列車のマッドサイエンティスト」
「オホホ、覚えていてくれましたか! 光栄です!」
レブンはケタケタと笑いながら近づいてきた。左右で色の違う瞳(片方は猫のような黄色、もう片方は人間の茶色)が、不浄な喜びで輝いている。彼は歩み寄り、イモータルが反応するよりも早く、彼を抱きしめた。
それは不格好だが、力強い抱擁だった。イモータルは、レブンの継ぎ接ぎだらけの人工的な体が黄金の鎧に押し付けられるのを感じた。
「これ、キシリアからの熱烈なご挨拶です」
レブンはイモータルのヘルメットのすぐ横で、しわがれた声で囁いた。
「彼女、あなたがバスルームに残した『忘れられないインパクト』について話していましたよ。あなたのことが恋しくてたまらないそうです」
イモータルは抱擁を返そうともせず、ただ硬直して立っていた。「オーケー。挨拶は受け取った。で、離してくれないか?」
レブンは体を離したが、遠ざかりはしなかった。彼はまたケタケタと笑い、その長く細い手が、今度は図々しくもイモータルの胸鎧の上を這い始めた。指先が複雑な黄金のヒエログリフをなぞる。
「まあまあ、そう冷たくしないでくださいよ、イモータルさん」
彼は猫なで声で誘惑するように言った。
「私ね、まだとーっても気になっているんですよ。この頑固な包帯の下に、一体何があるのか……」
左右非対称の瞳が、イモータルの胸で微かに脈打つ紫色の水晶を直視した。イモータルは強烈な不快感を覚えた。触られるのは嫌いだ。特に、あらゆるポケットにメスを隠し持っていそうな奴には。彼は本能的に一瞬だけ視線を外し、路地の出口を見て、最速の逃走ルートを計算した。
「いい加減に……」
彼がそう言いながら周囲を確認し、ほんの一瞬だけ隙を見せた、その時だった。
レブンが動いた。
イモータルが視線を戻した瞬間、古代魔法でできた彼の心臓が止まったかのように感じた。
レブンの手が、彼の胸に突き刺さっていた。
鎧の上からではない。中だ。彼の右腕は、黄金の胸当てと幾重にも巻かれた埋葬布を、まるで最初から存在しなかったかのように透過していた。そしてその手には、ある装置が握られていた。輝く銀で作られた、複雑で小さな機械式のアーム。その針のような指が今、彼の中にある何かを掴んでいる。
脈打つもの。ネフリスの紫水晶だ。
「アアアアアアアッ!」
イモータルの仮面の奥から迸った叫びは、人間のそれではありませんだった。それは路地の壁に反響する、純粋な苦痛の咆哮。魂のレベルで行われた侵犯に対する絶叫だった。
「アヒャヒャヒャヒャヒャ!」
レブンは狂ったように笑い声を上げた。継ぎ接ぎだらけの顔が狂喜で歪む。
「私のものを返してもらうだけですよ! 私の研究へのささやかなご褒美としてね!」
彼が手を引き抜き始めた。
痛みは超新星の如く炸裂した。イモータルは魂が肉体から無理やり引き剥がされるのを感じた。耐え難い激痛から生まれた純粋な反射で、彼は体を振り回した。蹴りだ。重厚な鎧のブーツが、全力でレブンの腹部に叩き込まれた。
ズドン!
レブンは後方へと吹き飛び、ボロ人形のように路地を舞った。そして金属製のゴミ箱と濡れたゴミ袋の山に、耳をつんざくような音を立てて激突した。
ガシャーン!
イモータルは膝から崩れ落ち、胸を押さえて荒い息を吐いた。やった。阻止したんだ。
しかし、顔を上げた瞬間、絶望が彼を襲った。
レブンはゴミの山の中で座り込んでいた。白衣は汚れていたが、彼はまだ笑っていた。そして彼が掲げた手には――血に塗れた機械式アームにしっかりと挟まれ、狂乱したように紫色の光を放つ、ネフリスの水晶があった。
奪われた。
「まさか……」
イモータルは力なく呟いた。
その直後、肉体が彼を裏切った。彼を維持していた力が消失したのだ。荘厳な黄金の鎧も、影の外套も、埋葬布も、瞬く間に崩れ去った。黒金色の砂煙となって渦巻き、汚れた路地の空気の中へと消えていく。
濡れた石畳の上に残されたのは、デボンだった。
一糸まとわぬ全裸の姿で、蒼白になり、汚れた水たまりの中で激しく震えている。まるで無理やり現実に吐き出されたかのように痙攣し、肌からは薄い煙が立ち上っていた。青ざめた唇の端からは涎が垂れている。
レブンはゴミの山から立ち上がり、肩についたバナナの皮を払い落とした。彼は甲高く、勝利に満ちた笑い声を上げた。
「アヒャヒャヒャヒャ! 素晴らしい! 墓所の残響の力……古代エジプトの神の魂……今は私のものだ!」
彼はデボンに近づき、冷たい石の上で胎児のように丸まっている、全裸の哀れな姿を見下ろした。
「へえ?」
レブンのニヤついた笑みが少し薄れ、滑稽なほどキョトンとした表情に変わった。彼は尖った靴先で、デボンの頬をツンツンと突いた。
「つまり……これが君の正体?」
彼は口元を手で覆い、クスクスと笑った。
「ふふふ……あらまぁ、可哀想に。ただの白くてちっぽけな裸の赤ん坊じゃないですか。筋肉すらない。ガリガリの骨と皮だけ。期待外れもいいとこですね」
彼は紫色の水晶を白衣の深いポケットに大切にしまうと、デボンの横にしゃがみ込んだ。そして、汗と泥水で濡れたデボンの黒髪を乱暴に掴み、顔を無理やり上げさせ、自身の継ぎ接ぎだらけの顔と対面させた。
「ふぅぅ……自分の姿を見てごらんなさい」
彼は残酷な囁き声で嘲った。
「偉大なる『イモータル』様。恐るべき黄金のファラオ。蓋を開けてみれば、寒さに震える惨めなガキだったとはね」
デボンは何か言おうとした。口を開くが、出てきたのは弱々しく震える呻き声だけだった。喉が焼けるように熱い。体が言うことを聞かない。
「おやあ、そんな目で見ないでくださいよ、ミスター」
レブンは喉を鳴らして笑った。顔を近づけると、左右非対称の瞳が純粋な狂気で煌めいた。
「へへへ……知ってますか? 君、こうやって無力な時の方が、ずぅっと可愛いですよ」
そして、デボンが次の恐怖を理解するよりも早く、レブンは彼に口づけをした。
冷たく、ひび割れた唇が、デボンの震える唇に押し付けられる。二股に分かれた舌――明らかに彼自身で改造したものだ――がデボンの口内に侵入し、侵略的かつ臨床的な好奇心で中を掻き回した。まるで好奇心旺盛な蛇にキスされているようだった。
永遠にも感じる数瞬の後、レブンは唇を離した。冷たい唾液の糸がデボンの唇に残された。
「うん」
まるで小さな実験を終えたかのように、彼は言った。
「今のを……別れの挨拶だと思ってください。とても協力的な被験体でいてくれたことへのね」
彼がデボンの頭を離すと、鈍い音を立てて汚れた石畳に打ち付けられた。
レブンは立ち上がり、白衣を整えた。彼はもう一度高らかに笑い声を上げ、その狂気じみた笑声は狭い路地に反響した。彼はそのまま雑踏へと歩き去り、ゴミと闇の中に、全裸で無力なデボンを一人残して姿を消した。




