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太陽神と暗い路地の影

ノクターヌスの空は、憂鬱な黄昏が永遠に描かれたキャンバスだった。重苦しい灰色の雲が聖ヴェレンのゴシック様式の塔の上に低く垂れ込め、止んだばかりの雨が石畳の道を濡らしている。その路面は、青白く明滅する魔導ガス灯の下で、濡れた黒曜石のように煌めいていた。


港湾管理局タワーの最上階にある執務室には、張り詰めた空気が漂っていた。その部屋はまさに矛盾そのものだった――外観はゴシック建築でありながら、内装は奇妙なほど現代的な90年代風の豪華さを誇っている。部屋を支配するのは磨き上げられた巨大なマホガニーの机。その上には低く唸るデータ端末と、奇妙な匂いを放つ葉巻の吸い殻で溢れたクリスタルの灰皿が置かれていた。


机の背後、活気あふれる港を一望できる巨大な窓を背にして座っているのは、行政官ヴァレリウスだ。


彼はぬらりとした官僚悪魔で、完璧に仕立てられたスリーピースのスーツを身に纏い、綺麗に湾曲した小さな角は後ろに撫でつけられ、艶やかに磨かれている。彼は葉巻から細い煙を吐き出し、その猫のような黄色い瞳で、作り物めいた落ち着きを払いながら雨を眺めていた。


彼の前に直立不動で立っているのは、ケレン卿だ。聖ヴェレン・エボニーガード(黒檀近衛隊)の人間の司令官である彼は、この豪華な空間には不釣り合いに見えた。重厚な鋼鉄の鎧は雨で濡れそぼり、その傷だらけの顔には苛立ちと純粋な困惑が入り混じった表情が浮かんでいる。


「閣下」とケレンが口を開いた。その声はしゃがれて重く、苛立ちを抑えきれていない。「あのミイラ男を、このまま野放しにしておいて本当によろしいのですか?」


ヴァレリウスは振り向かなかった。ただ葉巻を手に取り、赤く燃える火種を愛でるだけだ。

「ミイラ?」彼は優しく、そして嘲るような声色で繰り返した。「我々の大切な賓客に対して、少々失礼な呼び方ではないかね、司令官?」


「彼は不法入国者です、ヴァレリウス閣下」ケレンは食い下がり、ガントレットに包まれた拳を固く握りしめた。「書類なし。ビザなし。列車の屋根に現れたかと思えば、銀行では何もない空間から金塊を取り出して騒ぎを起こしました。それに、連れの女悪魔――背中に二本のカタナを背負ったあの女は、いつ爆発してもおかしくない爆弾のようです」


「ああ、そう。彼の富だ」ヴァレリウスはようやく豪華な椅子を回転させてこちらを向いた。蒼白な唇に薄い笑みを浮かべている。「莫大な富だ。それだけで、多少の融通を利かせる十分な理由になると思わないか、ケレン? この街は貿易で成り立っている。そして、『包帯に包まれた』我々のゲストは、この経済に巨額の資本を注入したばかりだ。我々は彼に……『歓迎されている』と感じさせなければならないのだよ」


「金持ちだからというだけで、あまりに理不尽ではありませんか?」ケレンの声が荒くなる。「この街に来る金持ちの観光客は彼だけではないはずです! ウンブラ城の吸血鬼貴族たちだって毎週末来ていますが、少なくとも彼らは書類を持参する手間くらいはかけています!」


ヴァレリウスは乾いた、ユーモアのかけらもない笑い声を漏らした。彼は立ち上がり、窓辺へと歩み寄ると、眼下の賑わう通りを見下ろした。

「ああ、ケレン、ケレン、ケレン……。君はいつも現実的すぎる。常に人間の兵士としてしか思考していない」

彼が振り返ると、その猫のような瞳は細められ、狡猾な光を宿していた。

「君の言う通りだ。金持ちだからというだけではない。彼は脅威なのだよ。君が想像するよりも遥かに大きな脅威なのだ」

ケレンは眉をひそめた。「どういう意味ですか?」


「考えたまえ、ケレン」ヴァレリウスは机を回り込み、司令官へと近づいた。「その金属に包まれた脳みそを使うんだ。あの銀行で死ぬほど怯えていた悪魔の窓口係は、彼がどこから来たと言っていた?」


「ケメティアです」ケレンは答えた。「砂の国」


「その通り。ケメティアだ」ヴァレリウスは声を潜めた。「ファラオの地。ピラミッドの地。古代の墓所の地だ」彼はケレンの目の前で立ち止まり、見上げた。「そして我々のゲストは、どのような格好をしている?」


「……ミイラのように」ケレンは、話の向かう先を察し始めた。


「黄金のファラオ神のようにだ!」ヴァレリウスは叫んだ。その笑みは今や大きく、狂気を帯びたものに変わっていた。「偉大なる墓守だ! いいかケレン、ケメティアでは何を崇拝している? 砂の精霊か? 砂漠の亡霊か?」


ケレンは沈黙した。ヴァレリウスのねじ曲がった論理が示唆する恐ろしい意味を理解し、目を見開く。


「太陽だ、ケレン!」ヴァレリウスは芝居がかった調子で囁いた。「彼らはラーを! ホルスを! アヌビスを崇めている! 全てを焼き尽くす光と、逃れられぬ審判の神々だ! 伝説によれば、太陽そのものを操るとされる神々だぞ!」


彼は振り返り、窓の外に広がるノクターヌスの永遠の灰色の空を指差した。


「想像できるか、司令官」彼の声は今や、パラノイアに満ちた張り詰めた囁きとなっていた。「もし我々が、ミイラに変装した太陽神を怒らせたらどうなる? たかが『書類』ごときで難癖をつけられ、彼が機嫌を損ねたら? もし彼が、この快適な永遠の夕暮れに……少々の『啓蒙』が必要だと判断したら、どうなると思う?」


ヴァレリウスは自らの想像に身震いした。

「彼はノクターヌスを照らすために太陽を持ち込むだろう! この霧を焼き払うだろう! そうなれば下級吸血鬼たち――港湾労働者や配達人、この街の労働力の半分が、数秒で灰になってしまうのだ!」


兜の下でケレンの顔から血の気が引いた。「市民たちが……」


「パニックになる!」ヴァレリウスは金切り声を上げた。「経済は崩壊し! 貿易は停止する! そして、ヴェスペリアで秩序と静寂を楽しまれている偉大なるヘスペリア女帝陛下は、極めて不快に思われるだろう。さあケレン、その時、陛下は誰を責めると思う?」


ケレンはごくりと唾を飲み込んだ。ようやく理解したのだ。


「だから、そう、司令官」ヴァレリウスは平静を取り戻し、ネクタイを直した。「我々はあの『ミイラ』を自由にさせる。彼が最高のケバブを食べられるように手配するのだ。あの女悪魔が何か切り刻みたいと言うなら、それも用意しよう――刑務所の囚人でもあてがえばいい。我々はどのような状況であれ、太陽神を怒らせてはならないのだ」

彼は椅子に戻り、新しい葉巻に火をつけた。

「さあ、執務室から出て行け。君のせいで私のパラノイアが悪化してストレスが溜まった」


『るつぼ街』の賑やかな通りを、イモータルは王者のような無関心さを漂わせて歩いていた。雨は上がり、無数に並ぶ店の看板が放つ極彩色のネオンが、水たまりに反射している。


「フハハハハ……」

黄金のファラオの仮面の下で、彼は低く笑った。その反響する声――平坦な口調とネフリスの古風な旋律が混ざり合った声――は、雑踏の中で異質に響いた。


『さて、俺は金持ちだ。超金持ちだ』

彼は魔法の亜空間に安全に収納された、札束の詰まったスーツケースの重みを意識しながら考えた。

『この大金をどうしてくれよう? 「錆びついたプロムナード」にある高級カジノでギャンブルでもするか。あるいは役に立たない高価な品物を買い漁るか。高級レストランに行って、俺を食い殺そうとしない料理を注文するのもいい。あるいは……』


隠された彼の顔に、彼自身にしかわからない薄いニヤけ笑いが浮かんだ。


『……女を買うか……』


「へへへ……どう思う、カゲヤマ?」

彼は誘うような口調でそう言いながら、後ろを振り返った。このイカれた旅の道連れがついてきていると思った場所へと。


そこには、誰もいなかった。


イモータルは混雑した歩道の真ん中で立ち止まった。買い物袋を抱えた巨体の悪魔が彼の背中にぶつかり、何か文句を言ったが、イモータルは微動だにしなかった。彼は左を見た。右を見た。通りは奇妙な生き物たちで溢れかえっていたが、暴力に対して不健全な執着を持つ、美しい黒鎧の悪魔の姿はどこにもなかった。


「おや?」彼は静寂に向かって言った。「どこ行った?」


遥か後方、駅前広場の雑踏の中で、カゲヤマは楽しんでいた。彼女は自分がはぐれたことに全く気づいていなかった。彼女は新しいおもちゃ――銀行の受付カウンターから盗んだ、きらきら光るカラスの羽ペン――に夢中になりすぎていたのだ。


「シュパッ! ヒャッ! 死ね、王室近衛隊長!」

彼女は自分にしか聞こえない声で囁きながら、羽ペンで空を突き、まるでレイピアであるかのように優雅な動きを見せていた。想像上の攻撃を避けて後ろに飛び退いた拍子に、強面な老女の吸血鬼の足を踏んづけてしまった。


「ごめん、ババア!」

彼女は振り返りもせずに叫び、再び壮大な戦いへと戻っていった。


くるりと回転し、鼻の上でペンバランスを取りながら、彼女は高らかに笑った。人混みに流されるまま歩き続け、その目は新しいおもちゃに釘付けだ。そしてついに、彼女は足を止めた。想像上の魔王(見た目はカニのバーテンダーにそっくりだった)を倒したばかりの彼女は、その勝利を主人に自慢しようと振り返った。


「マスター! 見た今の? アタシの勝ちだ! アタシは――」


彼女は凍りついた。周囲の道は、見知らぬ他人で埋め尽くされていた。巨大な黄金のファラオもいない。避難所代わりになる背の高い姿も、どこにもない。


勝利の表情は瞬時に崩れ去り、ショッピングモールで親を見失った子供のような、純粋なパニックへと変わった。


「え?」鮮やかな青い瞳が左右に泳ぐ。「マスター? マスターーッ!? どこ行ったのよ、このバカミイラァァァ!!」


彼女は即座に駆け出した。人混みをかき分け、悪魔やガーゴイルを押しのけながら、黄昏の街の喧騒にかき消されそうになりながらも、何度も主人の名を呼び続けた。


街の上空、風に逆らって音もなく漂う小さな黒い砂の雲があった。目立たない砂の姿になったイモータルは、ゴシック様式の尖塔の上空高く浮かび、眼下の通りをスキャンしていた。


『はぁ……ったく、面倒な奴だ』

彼の思考の声は、今や風の囁きそのものとなって響いた。

『5分目を離しただけで迷子になりやがる。殺傷能力のある武器を持った多動症の子供の子守をしてる気分だ』


彼は駅前広場に、黒と青の混沌とした一画を見つけた――カゲヤマだ。彼女は今、エボニーガードの隊員の肩を揺さぶり、「背が高くてキラキラした私の主人はどこだ」と詰め寄っているところだった。


『よし、あいつは無事だ。今のところはな』

イモータルはそう思い、彼女を回収するために下降しようとした。だがその時、別の何かが彼の注意を引いた。


音だ。


それは街の喧騒ではない。建物の間を傷跡のように走る無数の狭い路地の一つ、その暗がりから響いてくる隠された音だった。重く、リズミカルなその音。


ズシン……ズシン……ズシン……

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