黄昏の街、ゴブリンの少女、そして真夜中の書店
魔導技術を搭載したセダンのエンジンが心地よい唸りを上げ、ふかふかの合成皮革シートの下で微かな振動を伝えていた。窓の外では、ヴェスペリアの街並みが万華鏡のように流れていく――空高くそびえるゴシック建築の群れが、濡れた石畳に反射する緑や紫の魔法ネオンに照らし出されている。
助手席で、デヴォンはリラックスしながらも隙のない姿勢で座っていた。左手には食べかけのおにぎり――具のピリ辛イカゲソが舌に心地よい刺激を与えている。右手には、「マーメイド・ミルクコーヒー：深海塩味」と書かれたマリンブルーの冷たい缶を握りしめていた。
デヴォンはそれを一口すすった。妙な味だ。甘く、クリーミーだが、まるで乳牛がたった今海を泳いできたかのような塩味が口の中に残る。
『味は悪くないな』
彼は淡々とそう思いながら、おにぎりをゆっくりと咀嚼した。
しかし、分厚い前髪に半分隠されたその無表情な顔の裏で、デヴォンの思考はフルスピードで回転していた。ここ数日の残酷な出来事が、壊れたカセットテープのように再生され続けている。
『あの猫――ストームクローは一体どこへ消えた？』と彼は心の中で問う。『死んだのか？ あの爆発で燃え尽きたのか？ それとも、どこかの下水溝で傷を舐めているのか？』
そして、レヴン。あの白衣を着た狂った女。彼女の手がかりは完全に途絶えている。糸口はゼロだ。
デヴォンは深くため息をつき、その呼気が冷房の効いた車内で薄い霧を作った。正直なところ、復讐への燃えるような衝動は感じていなかった。復讐は疲れる。非効率だ。それに、レヴンのような相手――退屈しのぎに街の区画一つを更地にできるような天才サイコパス――に準備なしで挑むのは、馬鹿げた自殺行為というものだ。
『俺はまだ準備不足だ』彼は冷徹に結論づけた。『限られた装備で今の彼女に遭遇すれば、次の解剖標本にされるのがオチだ。最優先事項：生存。第二：情報。第三：美味い飯』
運転席では、エララがラジオから流れる悪魔ポップソングに合わせて鼻歌を歌っていた。ゴブリンの少女は片手でハンドルを握り、リラックスしながらも巧みに車を操っている。時折、その大きな黄色い瞳がデヴォンの方をちらりと見た。
エララの視線はデヴォンの顔ではなく、少し上の方に向けられていた。頭の側面。正確には、デヴォンの黒髪の間から突き出ている、一対の小さな赤い毛皮の翼へ。車が減速帯を越えるたびにその翼がピクピクと動くのを見て、エララは「かわいい！」という悲鳴を必死に噛み殺していた。
「もうすぐ着きますよ、デヴォンさん！」沈黙を破り、エララが明るく言った。
車は滑らかに曲がり、駅周辺よりもはるかに静かで高級な住宅街へと入っていった。手入れの行き届いた庭と、芸術的な錬鉄製のフェンスを持つ家々が並んでいる。
車は、エレガントなグレーに塗られた二階建てのヴィクトリア様式の家の前で停止した。
「ちょっと着替えてきますね」エララはエンジンを切りながら言った。「アカデミーの制服だと、遊びに行くにはちょっと堅苦しいので。デヴォンさん、少し外で待っててもらえますか？ それとも入ります？」
「外で待つよ」デヴォンは車のドアを開けて答えた。「タバコを吸いたい」
エララは嬉しそうに頷き、家の中へと駆け込んでいった。「どこにも行かないでくださいね！ 五分で戻ります！」
デヴォンは歩道に立ち、凝り固まった筋肉をほぐした。残りのおにぎりを一口で平らげ、プラスチックの包装と空のコーヒー缶を握りつぶす。彼は通りの向こうにある公共のゴミ箱に目をやった。
ゴミを捨てに行こうとしたその時、彼は誰かの視線に気づいた。
隣の家の庭で、噛みつきそうな食虫植物に水をやっている女性がいた。赤い肌に小さな角、そして先端がハート型になった尻尾を持つ美しい女性。サキュバスだ。彼女はこの寒さには少々露出が高すぎる部屋着を身にまとっていた。
デヴォンが通り過ぎようとすると、サキュバスは水やりを止めた。彼女はデヴォンを上から下まで値踏みするように見つめ、その瞳をいたずらっぽく輝かせた。下唇を軽く噛み、ゆっくりと、とてつもなく魅力的なウインクを投げかけながら、尻尾を艶かしく揺らしてみせた。
デヴォンは歩調を緩めなかった。振り返りもしなかった。瞬きさえしなかった。彼は完璧なスリーポイントシュートの精度でゴミをゴミ箱に投げ入れると、きびすを返してエララの車へと戻った。まるで隣にいるセクシーな美女が、ただの庭の彫像ででもあるかのように。
『面倒だな』と彼は思った。『この街の女は積極的すぎる』
十分後――それは女性の時間感覚でいうところの二十分後だが――エララの家のドアが開いた。
「お待たせしました！」
デヴォンが振り向くと、彼の眉がわずかに上がった。
エララはアカデミーの制服を脱ぎ捨てていた。今はアイボリーホワイトのワンピースドレスを身にまとっている。オフショルダーのデザインが、彼女の滑らかな緑色の肌を引き立てていた。スカート丈は膝上で、上品でありながら活発な印象を与える。足元には茶色のショートブーツ、そして小さなショルダーバッグ。白いボブヘアは綺麗に梳かされ、頬には薄くチークが差されており、顔色をより健康的に見せていた。
彼女はデヴォンの前でくるりと回り、スカートをふわりと広げた。「どうですか？」期待と不安が入り混じった顔で彼女は尋ね、その頬を深い緑色に染めた。
デヴォンは彼女を少しの間見つめ、ゆっくりと頷いた。
「いいな」彼は正直に、抑揚のない、しかし誠実な声で言った。「色が肌に合ってる。……新鮮に見えるよ」
そのシンプルな褒め言葉だけで、エララの顔は熟れた緑のトマトのように真っ赤（あるいは真緑）になった。彼女は俯き、スカートの裾をいじりながら、唇からこぼれる満面の笑みを隠せずにいた。
「えへへ……ありがとうございます」彼女は小さな声で言った。そして顔を上げ、瞳を再び輝かせた。「よし！ それじゃあヴェスペリアを制覇しに行きましょう！ 最初の目的地は、アーケイン商店街です！」
その日の午後の残りは、デヴォンにとってあまりにシュールで「普通」な時間のモンタージュだった。つい先日まで宇宙の力を振るっていた元・神殺しが、今やハイテンションなゴブリンの女子高生に連れ回されているのだ。
彼らはオートクチュールの魔法ローブを売るブティックを巡り、デヴォンが火を吹くハムスターに噛まれそうになる魔法ペットショップに立ち寄り、口の中で花火のような味がする異次元のフルーツが入ったクレープを食べた。
エララはずっと喋り続けていた。学校のこと、笑うとついうっかりガラスを割ってしまうバンシーの友達のこと、基礎金属変成の試験がいかに難しいかということ。
デヴォンは聞いていた。口数は少なく、時折「ふうん」「そうか」と相槌を打ったり、「そのネバネバした物体は食えるのか？」と短く質問したりするだけだった。彼は可能な限り「普通」に振る舞い、無口な観光客という役割を楽しもうとしていた。
商店街の雑踏の中で、小さな災難が起きた。
「エララ！」
甲高い叫び声が彼らを足止めした。十代の少女たちのグループ――若い吸血鬼、人型のワーウルフ、そして宙に浮く幽霊の少女の混合チーム――が駆け寄ってきた。
「あ、やば」エララは呟いたが、顔には笑みを浮かべていた。「クラスメイトたちです」
「あらあらあら！ エララに彼氏ができてる！」吸血鬼の少女がからかい、牙を見せてニヤリと笑った。
「か、彼氏じゃないよ！」エララは慌てて手を振った。「この人はデヴォンさん！ その……観光客なの！ 私はただのガイド！」
エララの友人たちは聞く耳を持たなかった。彼女たちはデヴォンを取り囲み、十代特有の無遠慮な好奇心で彼を見つめた。デヴォンは電柱のように直立し、両手をズボンのポケットに突っ込み、顔を能面のように無表情にしていた。
「すっごい背が高い！」ワーウルフの少女がデヴォンの周りの匂いを嗅いだ。「いい匂い。雨と……何か危険な匂いがする」
「肌を見て、すごく白いわ」幽霊の少女が透き通った手でデヴォンの腕をすり抜けながらコメントした。「私と同じくらい青白い」
そして、彼女たちの視線はデヴォンの頭に釘付けになった。
「キャー！ 見てあれ！」吸血鬼の少女が叫んだ。「頭にちっちゃい翼がある！ 超かわいいんだけどー！」
デヴォンが反応する暇もなく、好奇心旺盛な手が一斉に伸びてきた。
「触っていい？」返事も待たずに彼女たちは尋ねた。
「えっ、待て――」デヴォンは後ずさろうとした。
だが手遅れだった。彼女たちの指が、頭の側面にある小さな赤い翼に触れた。
ビキビキッ！
静電気とくすぐったさが混ざり合い、背骨を突き抜けるような強烈な感覚がデヴォンの全身を駆け巡った。肩が跳ね上がり、首が縮こまり、彼は男らしさの欠片もない奇妙な声を漏らした。
「ひぃっ！」
デヴォンは二メートルほど後ろに飛び退き、両手で頭の翼を覆い隠した。前髪の奥で顔を真っ赤にし、全身を震わせ、鳥肌を立てている。
「さ……触るな！」彼は叫んだが、声はわずかに裏返っていた。
少女たちは一瞬沈黙し、次の瞬間、爆笑の渦に包まれた。
「あははは！ 反応ヤバい！」
「そこ弱点なんだ！」
「翼がプルプルしてる！ 超ウケる！」
エララも手で口を覆いながら笑っていた。「すみません、デヴォンさん！ あなたの翼、どうしても……触りたくなっちゃうんですよ」
デヴォンは恐怖に満ちた目で彼女たちを見ていた。彼はこれまでに怪物の神を虐殺し、多元宇宙を喰らい尽くしてきたが、耳を触りたがる女子高生の集団に囲まれる方がはるかに恐ろしいことが判明した。
『忘れるな』デヴォンは動揺しながら髪を整え、心に刻んだ。『この翼は立入禁止区域だ。とてつもなく、敏感すぎる。クソッ』
夜が更けてきた。街の喧騒は静まり、より穏やかでロマンチックな雰囲気に変わっていた。
デヴォンとエララは、ミラーミア湖（鏡の湖）のほとりにあるオープンカフェのテラス席に座っていた。その名の通り、湖面は静かで暗く、ヴェスペリアの街の灯りと空に浮かぶ双子の月を完璧な鮮明さで映し出し、魅惑的な二重の都市の幻想を作り出していた。
テーブルの上では、二つの魔法ハーブティーが香り高い湯気を立てている。
デヴォンは椅子に背を預け、水面に映る月を見つめていた。この場所の美しさは否定できない。この狂った世界では滅多に見つけられない静けさがここにはあった。
「きれいでしょう？」エララが静かに尋ねた。昼間のようなハイテンションな声ではない。彼女は優しい黄色い瞳でデヴォンを見つめていた。
「ああ」デヴォンは短く答えた。「とても静かだ」
エララはティーカップの取っ手をいじった。「デヴォンさん……この後、本当はどこへ行くつもりなんですか？ すぐに行ってしまうって言ってましたけど」
「さあな」デヴォンは肩をすくめた。「別の街を探すかもしれない。あるいは……ある人物を探すか」
「それなら……」エララは一瞬躊躇し、再び頬を緑色に染めた。「もしデヴォンさんがまだ泊まる場所を決めていないなら……今夜は私の家に泊まってもいいですよ。父もきっと気にしません。客室も空いてますし、それに……もう夜も遅いですから」
その申し出は純粋だった。無垢で、そして非常に魅力的だった。ふかふかのベッド、暖かい家、路上の危険から遠く離れた場所。
デヴォンはゴブリンの少女を見つめた。彼女はこの残酷な世界における「善」そのものだ。だからこそ、デヴォンはこれ以上彼女に関わるわけにはいかなかった。デヴォンの足跡には常に血と破壊がつきまとう。それをエララの家の玄関まで持ち込むわけにはいかない。
デヴォンは薄く、少しだけ悲しげな笑みを浮かべた。
「ありがとう、エララ。本当にありがたい申し出だ」彼は優しく言った。「だが、できない。今夜中にやらなきゃならないことがあるんだ。それに俺は……一人で動くのが好きなタイプでね」
エララはがっかりした様子で、耳を少し垂れた。しかし彼女は頷き、そのやんわりとした拒絶を理解した。「わかりました。でも、またヴェスペリアに来たら寄ってくれるって約束してくれますか？」
「約束する」デヴォンは嘘をついた。
時計は深夜十二時を指していた。街の塔にある大鐘が十二回鳴り響き、その音が無人の通りにこだまする。
デヴォンは石畳の歩道を一人で歩いていた。夜風を防ぐためにコートの襟を立てている。先ほど魔導タクシーでエララを送り届け、今や彼は自分の本来の居場所――闇と孤独の中へと戻っていた。
タバコの先端が明るく燃え、それが冷たい顔の中で唯一の熱源となっていた。
「さて……仕事だ」彼は呟いた。
彼は宿を探しているのではない。情報を探しているのだ。
彼の目が、風に揺れる古い木製の看板を捉えた。『古書＆地図専門店：スターダスト・アーカイブ（星屑の記録保管所）』。窓は埃っぽく、積み上げられた本が視界を遮るほど高くそびえている。中の明かりはまだ微かについていた。
デヴォンは入り口のドアを押した。真鍮のベルがカランと鳴る。
古い紙、インク、そしてコーヒーの香りが彼を迎えた。店は狭く、通路は天井まで届く本棚で埋め尽くされている。地図の巻物が山積みになったカウンターの向こうで、誰かが座って本を読んでいた。
「すみません、もう閉ま――あら、どうぞお入りなさい」
店主は、美しい大人の女性だった。長い紫色の髪を緩く編んで肩に流している。顔には疲れが見えるが愛想は良く、チェーン付きのリーディンググラスが鼻に乗っていた。その瞳は、まるで寝起きか、あるいは十年ほど寝ていないかのような気だるげな色を帯びている。
だが最も目を引いたのは、彼女の下半身だった。彼女に足はない。腰から下は、複雑な金色の模様が入った濃い紫色の鱗を持つ巨大な蛇だった。ラミアだ。
デヴォンは近づき、ドアのそばにある灰皿でタバコを消した。
「こんばんは」デヴォンは挨拶した。
「こんばんは、風変わりなお客様」蛇の女性は、ハスキーでセクシーな声で答えた。彼女は本を置いた。「私の名前はステラ。こんな幽霊が出るような時間に何かご用？ 吸血鬼のロマンス小説をお探し？ それとも禁断の魔道書？」
「デヴォンだ」彼は名乗った。「いや、俺が探しているのは地図だ。この大陸の極めて詳細な地図。それと輸送ルートも」
「地図、ねえ……」ステラは蛇の体を滑らせ、鱗が木の床で微かに衣擦れの音を立てた。彼女は後ろの棚に手を伸ばし、大きな巻物を取り出した。「これはグロームフェン主権国とその周辺地域の標準地図。最新版よ」
彼女はカウンターの上に地図を広げた。
デヴォンは身を乗り出し、鋭い目でインクの線を追った。ヴェスペリア、聖ヴェレン門、鉄道網。その他の地域。この地図は彼が想像していたよりもはるかに複雑だ。
「この世界は広いな」彼は呟いた。
「とても広いわ」ステラは頬杖をつき、眠たげな目でデヴォンを見つめながら同意した。「それで、デヴォンさんの目的は？ ただの観光？」
デヴォンは地図から顔を上げずに答えた。「ああ。観光だ。新しい景色を探しにね」
彼は奥地へと続く鉄道路線を指でなぞった。そして、可能な限り平坦な声を作って尋ねた。「ところで、ステラ……この地域で、マッドサイエンティストの襲撃事件とか、暴走した生物実験みたいな話を聞いたことはないか？」
ステラはゆっくりと瞬きをした。「マッドサイエンティスト？ ヴェスペリアで？」彼女はクスクスと笑った。「いいえ、お客様。ここにいるのは狂った政治家と狂った芸術家だけよ。城壁内の魔法倫理に関してはとても厳しいの。どうして急にマッドサイエンティストの話を？」
デヴォンは体を起こし、ステラの目を見つめた。彼はアドリブでいくことに決めた。真剣で、少しミステリアスな表情を作る。
「実は……」彼は身を乗り出し、囁いた。「俺はエージェントなんだ」
ステラは笑った。軽やかで心地よい笑い声だった。「エージェント？何のエージェント？ 不動産？ 私に幽霊屋敷でも売りつける気？」
デヴォンは薄く笑い、その冗談に乗った。「似たようなものだ。害虫駆除の……エージェントさ」
ステラの笑い声が静まり、意味ありげな微笑みに変わった。「まあ、エージェントさん。もし純粋な狂気をお探しなら、場所が間違ってるわ。ヴェスペリアは秩序がありすぎるもの」
ステラの長い爪を持つ人差し指が、地図の端、グロームフェン主権国の国境の外を指し示した。
「あの外……『塵の荒野』や『鉄の帝国』の国境付近……そこでは法律なんて通用しない。追放者や、禁忌を犯した魔術師、モラルのない科学者たちが巣食う場所よ。もし私があなたで、見つけられたくない誰かを探しているのなら……公式の地図に載っていない場所から探し始めるわね」
デヴォンはステラが指差した地図上の空白地帯に目を細めた。
『なるほど』彼は考えた。『グロームフェン主権国以外にも国がある。そしてノクターナスは俺が思っていたよりも広い。もしレヴンが逃亡したのなら、邪魔されずに実験を続けられる場所へ行ったはずだ』
「ありがとう、ステラ」デヴォンは言った。「非常に有益な情報だった」
彼は銀色のスティギア通貨を数枚取り出してテーブルに置き、地図の代金を三倍にして支払った。
ステラは金を見て微笑んだ。「気前がいいのね、エージェントさん」
デヴォンは地図を丸め、懐に入れた。彼は出口へと向かう。
「ねえ」ステラが呼び止めた。「もし他に何か必要なものがあれば……言ってちょうだい」
デヴォンはドアの敷居で立ち止まった。ドアノブを握ったまま、後ろを振り返る。彼は、専用の椅子の上で蛇の体を心地よさそうに巻き直しているステラを見つめた。店は暖かく、静かで、落ち着く古書の匂いがした。
そして、列車や地面、あるいは爆発する宿屋で寝ることにうんざりしていたデヴォンの中に、再び実利主義的な衝動が頭をもたげた。
「実のところ、もう一つあるんだ」デヴォンは真顔で言った。
「なあに？」ステラが尋ねた。
デヴォンは恥じらいの欠片もなく彼女を見つめた。
「今夜、あんたの店に泊めてもらうことはできないか？ この街のホテルは高すぎてね」
ステラは一瞬沈黙し、目をぱちくりさせた。やがて、彼女の顔に可笑しそうに大きな笑みが広がった。
「あなたって……本当に変わった男ね、デヴォン」
