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如月一族 その5

エントランスのインターフォン越しに映ったのは、

アッシュグリーンの上着姿の蜜子だった。


(ちなみに俺は、自分の知っている人間が40m以内にいる場合、その存在を生体電位と歩行リズムのパターンで認識できる。だからインターフォンに細工をしても意味はないが。)


リビングでフライドポテトを広げた蜜子は、ポルトローナ・フラウの一人掛けソファに腰を下ろし、見事な脚を、静かに組む。


「で、どうするつもり?」


「もちろん、YESさ。」


俺は片膝をつき、ポケットから祖父の形見のダイヤの

指輪を取り出した。


「まあっ!」


蜜子が覆い被さってくる。


――10分後。


ポテトをレンジで温め直し、皿に盛る。


自分で持って来たポテトをつまみながら、


「J.I.Dの件よ」


と改めて詰めてくる蜜子に、俺は再び尋ねた。



JAPAN Intruder Detector。

略して――J.I.D。

対日侵入検知機構。



「つまり、宇宙人まで含めた侵入者に備える、という意味だな?」


「ええ。昔は鬼だの天狗だのもいたしね。

鎌倉時代、日本は二度の元寇を受けている。それがルーツよ。」


(ちなみに我が家に伝わる家伝書によれば、役行者に仕えた二匹の鬼が如月一族の祖先だと記されている。


時代を経て寺社侍となり、江戸中期には地下人である禁裏付武士に召し抱えられた。

つまり、式典を司る東儀に対する武力セクションが西儀というわけだ。


四門を守る玄鬼・青鬼・白鬼・赤鬼があり、我が家は青鬼。

蜜ネエの家は白鬼である。)


「それで、J.I.Dに入るメリットは?」


「一つは他省庁とのコネクション。内閣情報調査室、外務省、防衛省、警察庁。ほかにも総務省や農林水産省とも顔ができる。昇進も昇給も別枠。」


「そして国交省からは、国会議員と同じ、飛行機と新幹線のフリーパスが発行される。」


「随分な大盤振る舞いだな。」


「それと給与……というより手当ね。

生計を共にする家族一人あたり、年間110万円分の商品券が支給されるの。


例えば、あなたと結婚すれば、私に220万円。

そしてあなたにも220万円。

合わせて世帯年収は440万円アップ。」


蜜子は笑う。


「それ、詐欺みたいだな。

収入が増えるのはありがたいが、生憎と紛争地や死地に向かう気はない。」


「もちろん。フォーカスをコントロールできる、つまり最も生存確率の高いメンバーがスカウトされるの。

中野システムの名残りね。」


「なるほど。

我々は少子化対策には都合のいいモデルケースかもな。」


蜜子は「もうっ」と笑い、

再び覆い被さってきた。



翌日は土曜日だったので、蜜子と二人で新宿に出る。


BMWとバーニーズ ニューヨークを一通り眺めてから、

ふらりと単館の小劇場に入り、『哀しみのベラドンナ』という四十年前のアニメ作品を観る。


そのエロティックかつ芸術性の高さに、俺は些か驚きを隠せなかった。

蜜子も同じだったようだ。


帰り、人混みの中で蜜ネエと婚約者らしい男が仲睦まじく歩いているのを見かけた。

確か海保関係者だったはずだ。


蜜ネエ――悪くない。


その瞬間、蜜ネエと目が合う。


彼女はふっと笑い、二本指で敬礼を送ってきた。

俺もわずかにうなずき、こめかみの横で指を揃える。


何を守っているのか、もう思い出せない。

それでも、境界には立っている。


――血は巡る。ただ、それだけだ。


如月一族編 完



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