アンノウン その後3
開票速報のテロップが、
画面の下を淡々と流れた。
〈東京15区 如月蜜 当選確実〉
一瞬、
事務所――
正確には、駐車場に置かれたエアストリームの中の空気が止まる。
次の瞬間、
拍手が起きた。
歓声というほどのものではない。
少人数のスタッフが、
それぞれの位置で、短く手を叩く。
この選挙区は、
もともと「面白い」と言われる場所だ。
だが今回は、如月蜜が加わったことで、
その傾向は決定的になった。
ネット配信や、はしけを使ったゲリラ演説。
イレギュラーさで言えば、群を抜いていた。
勝った、というより、
通過した――
そんな拍手だった。
如月蜜は、
その輪の中心で、静かに立ち上がる。
マイクは取らない。
演説もしない。
ただ、
飲みかけの紙コップをテーブルに置き、
一言だけ、口にした。
「――ここから、ですね」
それだけだった。
拍手が、もう一度だけ起きる。
だが今度は、
さっきより少しだけ小さかった。
俺はその光景を、
一歩引いた場所から見ていた。
世界は、
何事もなかったかのように、
次の段階へ進んでいく。
そのことを、
誰よりも彼女自身が、
よく分かっている顔だった。
味沢さん、赤井さん、吉岡さん。
それから秘書の杏子さんまで――
集まった全員が、言葉もなく頷く。
一人でも悪党と言われるくらい、
悪というものは強いのだが、
それにこの少人数で立ち向かったのだ。
俺から見ても、
一癖も二癖もある連中ばかりだが、
よくもまあ、ここまで綺麗に集まったものだと思う。
その中で、
大谷の兄ィが、人数分のコーヒーを
紙コップに淹れる。
俺はそれを受け取り、
一人ずつに配っていった。
祝杯はない。
ただ、
次へ進むための温度だけが、
エアストリームの中に残っていた。
大谷の兄ィは、
俺に一瞬だけ目配せをすると、
何も言わずに外へ出ていく。
俺も、それに続いた。
今回の俺のミッションは、
あくまで大谷のセキュリティだ。
選挙スタッフという肩書きは、
ただの副産物に過ぎない。
以前、如月さんと大谷さんと初対面で、今回のシナリオは既に完成していた。
これはフォーカスコントロール、つまり
CIAや軍・情報機関のプロファイリング/シチュエーショナル・アセスメントと
かなり近い考え方です。
そしてそのシナリオ通りになっただけだ。
俺は周囲に意識を張るが、
特に不審な気配はない。
大谷は紙コップを握り潰しながら、
海を見つめて言った。
「セフィ、それでいい」
「疲れさんだった。
とりあえず、明日ここを去る。
まだコロンビアで、片付けが残ってる」
「なるほど。
エメラルド鉱山が、心配ですね」
「ああ。知っての通り、
あっちでエメラルド鉱山をやってる連中は、
イコール、コカインディーラーでね。
そろそろ帰らないと、
何が起きても不思議じゃない」
そう言って、
彼は右手をピストルの形にして、
引き金を引く真似をした。
「BANG」
そして、軽く笑う。
「こっちでの君の勤務態度は、満点だった。
ジェイソン•ステイサムに紹介したいくらいさ。
もしインターンに来る気があるなら、
歓迎するよ」
彼が手を差し出す。
俺はそれを握り返し、
海に向き直る。
世界は騒がしいが、
実際にトリガーを引く者は少ない
そして同じように、
右手をピストルの形にして、
引き金を引く真似をした。
――BANG。
FINE




