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もう一度、やり直せるなら  作者: 青サバ
2章 様々な始めて
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2-4 初めてで、特別な昼のひととき

 次の週の月曜日。

 駿は登校途中、スマホが短く震えた。


 ――果奈

『昼休み、倉庫裏に来て』


 それだけの文面なのに、胸が落ち着かなくなる。


『分かった』


 そう返してから、午前中の授業はほとんど頭に入らなかった。


 昼休み。

 倉庫裏へ向かう足取りは、無意識に早くなっていた。


 先に着いて待っていると、ほどなくして果奈が姿を現す。


「ごめん、待たせちゃった?」


「全然。今来たところ」


「そ、そう……」


 落ち着きのない視線。

 いつもより、明らかに緊張している。


「その……渡したいものがあって」


「渡したいもの?」


 果奈は一度息を整えてから、後ろに隠していた袋を差し出した。


「……お弁当」


 真っ赤な顔で、ゆっくり頷く。


「ありがとう。すごく嬉しい」


 言葉にすると、胸の奥がじんと温かくなった。


倉庫裏の座れるところに腰を下ろし、弁当箱を開く。

 2段の弁当。上には肉巻きやブロッコリーの和物などのおかず、下は白いご飯に梅干し。


「いただきます」


 箸で肉巻きをつまんだ瞬間、果奈の視線を感じる。

 そのまま口に運んで――


 ……強烈だった。


 塩気が一気に広がり、思わず喉が渇く。


「……どう? 美味しい?」


 不安そうな声。


「う、うん……美味しいよ」


 無理に笑ってみせるが、果奈はすぐに眉を寄せた。


「絶対、美味しそうじゃなかった」


「いや、本当に――」


「嘘。今の顔、分かりやすいもん」


 観念して、正直に言う。


「……ちょっと、しょっぱいかも」


「ちょっと?」


「ほんとに、ちょっと」


 果奈は唇を噛み、小さく唸る。


「調味料の量、間違えたかな……」


 果奈は箸を取って、一口食べる。


「……しょっぱい」


「……うん」


「いや、これは……しょっぱい!」


 弁当箱を見つめる果奈の肩が、少し落ちた。


「ごめんね……無理して食べなくていい」

「残りは、私がどうにかするから……」


 今にも泣き出しそうな果奈の表情と残った弁当が胸を締め付ける。


 居ても立っても居られなくなり、気づけば、箸を取り直していた。


「……駿?」


 何も言わず、もう一口。

 正直、きつい。でも、止めなかった。


「ちょ、ちょっと、何してるの!?」


 無心で食べ続けて、最後の一口を飲み込む。


「……よし」


 空になった弁当箱を閉じて、笑う。


「この味、ちゃんと覚えた」

「え?」

「次に作ってくれたとき、成長が分かるでしょ」


 一瞬、果奈は言葉を失ったように俯いた。


 けれど、その手は――空の弁当箱を、強く握りしめていた。


「……感情、ぐちゃぐちゃだから」

「今、顔見ないで」


「う、うん」


 しばらく沈黙。

 やがて、果奈が顔を上げる。


「……本当に、大丈夫?」


「大丈夫。嬉しかった」

「ありがとう、駿」


 いつもの、柔らかい笑顔に戻っていた。


「次は、ちゃんと美味しいの作るから」

「覚悟しててね」


「楽しみにしてる」


 少し間を置いて、果奈が続ける。


「ねえ」

「これから、昼休み……ここで一緒に過ごさない?」


「ここで?」


「学校で会えるの、帰りだけなの、ちょっと寂しくて……」

 一拍置いて、静かに。

「……もっと、駿と一緒にいたいから」


 胸の奥が、強く鳴った。


「……うん」

「そうしよう」


 弁当の味は、正直言って最悪だった。


 でも――

 この昼休みは、間違いなく忘れない。

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