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もう一度、やり直せるなら  作者: 青サバ
2章 様々な始めて
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2-3 本当の事が言えない

 次の週の水曜日。

 駿は部活を休み、美生と待ち合わせて複合商業施設へ向かった。


「ごめん、待たせた?」


「ううん、大丈夫」


 そう言って笑う美生に、胸の奥が少しだけちくりとする。

 自分の家の買い物に付き合わせているという事実が、今はいつも以上に重く感じられた。


 最初に向かったのは、日用品売り場だった。


 女性用シャンプーの棚を前にして、早くも立ち尽くす。

 似たようなボトル、似たような香り、似たような文字列。


 「……毎回思うけど、全然分からない」


「結ちゃんの使ってるのは、こっちだよ」


 迷いなく指差す美生に、思わず苦笑する。


「よく分かるね」


「間違えたら、結ちゃん怒るでしょ」


「……怒る」


 優しく笑われて、頭が下がる。


「ほんと、毎回ありがとう」


「どういたしまして。駿君の家の事情も分かってるし」


 その言葉が、余計に胸に残った。


 必要なものを一通り買い終え、並んで帰路につく。

 他愛ない話をしていた、その途中で——美生が、ふと思い出したように言った。


「ねえ」

「最近、果奈ちゃん、すごく明るくない?」


 心臓が、小さく跳ねた。


「……そうかな」

「うん。前から明るい子だったけど、最近は“楽しそう”って感じ」


 曖昧に笑って誤魔化す。


 果奈と美生は高校1年生のとき同じクラスで仲良くなり、クラスが違う今も連絡取り合ったりする程の仲だった。


「何か、心当たりある?」


 問いかけは柔らかいのに、逃げ場がなかった。


「さ、さあ……」


 周りから分かるほど、果奈が変わっている。

 それが嬉しくて、同時に、言えないことが増えていく。


「もしかしてさ」

 美生は冗談めかした声で続ける。

「好きな人、できたのかな?」


 思わず、足が止まりそうになる。


「……そうなのかな」

 笑って返すが、鼓動が速い。


「逆に、何でそう思ったの?」


「なんかそんな感じがしただけ」


「そうなんだ…因みに美生って好きな人居るの?」


 話を逸らす為に美生に気になってる人が居るのか

聞いてみる。


「……そうね〜辰巳君はかっこいいと思うけど、今は居ないかな」

「じゃあ、駿君は?」

「好きな人、いるの?」


 今度は、はっきりと心臓が跳ねた。


「……いない、かな」


 頭に浮かんだのは、果奈の笑顔だった。

 それを押し込めるように、視線を逸らす。


「そうなんだ」


 それ以上、美生は踏み込まなかった。

 けれど、その「そうなんだ」が、妙に静かで——優しすぎて。


「……あ、もうこんな時間だ」


無理に明るく言った。

「結、待ってるだろうし、急ごう」


「うん、そうだね」


 結局、そのまま家に着いてしまった。



 夜。

 布団に入っても、眠気は来なかった。


 ——果奈ちゃん、すごく明るくなった。


 その言葉が、何度も頭の中で反響する。


 誰かに話さないと、考えがまとまらない。

 そう思って、駿は直己に電話をかけた。


「どうしたんだよ、こんな時間に」


「ごめん。ちょっと相談があって」


 今日の出来事を一通り話す。


「なるほどな……」

 直己は少し考えてから言った。

「正直、俺なら——まだ言わない」


「……だよな」

「付き合い始めたばっかだろ? 関係がちゃんと形になってからでいい」

「中途半端なタイミングで言うと、余計こじれる」


「ありがとう」


「悩んでるなら、また言えよ」


 電話を切ると、胸の奥の重さが少しだけ軽くなっていた。


 今は、果奈との時間を大事にする。

 それでいい。


 そう決めて、目を閉じる。


 ——その「いつか」は、まだ先だと思っていた。

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