2-2 残り続ける余韻
果奈に手を引かれるまま、駿は映画館へ向かった。
休日の館内は家族連れやカップルで賑わい、甘い匂いとざわめきが混じっている。
「ねえ、観たい作品があるんだけど……いい?」
「いいよ。どんなの?」
「恋愛もの。ラスト、泣けるって」
特に希望もなかったので頷いた。
作品のタイトルは――『失いたくない』。
幼馴染に想いを告げ、ようやく結ばれた恋。
だが幸せは長く続かず、彼女は突然、理不尽な形で奪われる。
残された彼が、彼女の言葉を胸に前を向く物語だった。
エンドロールが流れる頃、胸の奥がぎゅっと締めつけられていた。
隣を見ると、果奈はどこか不満そうな表情をしている。
「……あんまり、だった?」
「面白くなかったわけじゃないよ」
少し考えてから、果奈は続けた。
「でも、急すぎる気がしたの。幸せな時間が短すぎて……」
「俺は、あのラスト好きだったけどな」
「うん、感動はした。でも、彼女が最初から余命わずかだったとかなら、もっと受け止められたかも」
納得していない口ぶりのわりに、細部まで覚えていた。
ちゃんと、物語を見ている。
しばらくして、果奈がぽつりと言う。
「……もし、突然駿がいなくなったら」
「私、あの主人公みたいになるのかな」
考えるより先に、言葉が出た。
「俺は、果奈の前からいなくならない」
即答だった。
果奈は一瞬驚いた顔をして、それから安心したように微笑む。
「……ありがとう」
映画館を出ると、時刻はすでに夕方を回っていた。
「じゃあ、また学校で」
「待って、駿」
果奈が呼び止める。
「私たち、まだLINE交換してなかった」
「あ……そうだね」
画面に表示された名前を見て、胸が少しだけ高鳴る。
「改めて、よろしくね」
「うん。また明日」
別れ際、歩き出そうとした袖を、くいっと引かれた。
「……最後に一つだけ」
果奈は少し照れたように言う。
「また、デートしようね」
一瞬、言葉を失った。
「うん。次は俺がちゃんとエスコートする」
「ふふ、楽しみにしてる」
果奈の背中を見送りながら、駿は確信していた。
――今日のデートは、成功だったと。
その夜。
ベッドに横になっても、果奈の笑顔が頭から離れない。
そんな時、ドアを強く叩く音が響いた。
「……誰だよ」
不機嫌そうに開けると、結が頬を膨らせて立っていた。
「兄さん、何回ノックしても出ないんだけど」
「そんなにしてた?」
「1分はしてました」
明らかに機嫌が悪い。
「……ごめん」
「で、水曜は美生姉さんと買い物?」
「うん。何か必要?」
「シャンプー切れそう」
「了解」
家庭事情もあり、週に一度、夕飯の買い物だけではなく、日用品も買う買い物があった。
日用品も一緒に買うとなると、凄い量になるので、自分も同行していた。
スマホのメモに真っ先に「シャンプー」と書き込む。
忘れたら、確実に怒られる。
そのまま、果奈との今日を思い返す。
楽しかくて、間違いなく幸せだった。
――だからこそ、気づかなかった。
あの映画と、自分たちの間に、ほんのわずかな“重なり”があったことに。




