4-2 勝負の世界
その後、駿は勝ち星を重ね、七勝四敗で最終戦を迎えた。
最後の相手は隆二。
五勝六敗。
この一戦を落とせば、代表はほぼ消える。
試合前。
声をかけようとして、やめた。
隆二の横顔は、硬い。
じゃんけんのために向き合っても、目は合わない。
無言のまま、コートに立つ。
ラリーが始まる。
隆二の打球は、いつもより重い。
一本一本に、食らいつくような執念がある。
だが――
試合は思ったより一方的に進んだ。
ショットが決まり、スコアは離れる。
勝利が見えた瞬間、胸の奥がざわつく。
――勝たなければ。
――でも。
サーブを構える。
視線の先、隆二の目は、燃えている。
追い詰められた人間の目。
トスが乱れた。
甘い。
打たれた瞬間、やられたと分かった。
鋭いリターンが突き刺さる。
そこから流れが変わった。
隆二がゲームを連取する。
足が重い。
それでも、必死に球に喰らいつき、再びものにしたマッチポイント。
今度は隆二のサーブ。
静まり返るコート。
――来い。
掛け声と同時に、鋭い一球。
ラインを越える。
アウト。
隆二が深く息を吐く。
もう一度、構える。
さっきより強い掛け声。
全身で振り抜く。
ボールはネットに触れ、落ちた。
鈍い音。
ダブルフォルト。
試合終了。
勝ったはずなのに、胸が重い。
ネット越しに向き合う。
「……ありがとう」
隆二の声は、かすれていた。
「……ああ」
それ以上、言葉は出ない。
最終成績、八勝四敗。
代表入り。
隆二は残念ながら、代表入りは出来なかった。
部活が終わり、片付けの登板日で、隆二と共に片付けをした後に部室に向かう。
二人きりの部室。
ロッカーの金属音だけが響く。
「代表、おめでとう」
代表入りを祝う言葉だったのに、嬉しい気持ちになれなかった。
「……ありがとう」
視線は合わない。
「入部した頃は、ほとんど同じだったのにな」
隆二が笑う。
うまく笑えていない。
「ダブルスは行く」
「今度は、一緒に勝とう」
それにうなずく。
拳を握る。
爪が、掌に食い込む。
「絶対、行こう」
ロッカーを閉める音が、やけに大きく響いた。
二人並んで部室を出る。
夕暮れの光が、長い影を落としていた。
その影は、まだ隣にあった。




